東北をテーマにした怪談集。
各県毎に分けて、複数人の作者が執筆している。
比較的好きな作家さんが多いので、それなりに楽しめた。中にはどうなのこれ、という人もいたけれど。
わりと地方感・現地感は出ていたようにも思う。
とは言え、全体としては大分薄味な印象。
「繋ぐ」電話番号を念じるだけで、巫者と繋がることが出来、霊を送り届けられる、というのは驚きだ。
しかも、こちらから何も言わなくとも、向こうから送られたことへの報告もあり、その霊の姿まで一致している。
こういった力は本当に存在するのだろうか。
「転倒の理由」確かに、バイク事故だけではただの偶然、と捉えられるかもしれない。
しかし、その現場では、実際には降っていなかった雨を体験している、
心霊スポットを訪問したこととの繋がりも判らず、何とも不思議。
「海で立ってる」流石小田イ輔、こうした競作怪談集でも二編が「入選」している。
漁師しか辿り着かないようなはるか沖の洋上、そこに立っている人間。
その絵面を想像すると怖ろしいと同時に何だか物悲しくなる。
その場所の海底に遺体が流れ着き、それでそこから離れられないのかもしれないけれど、滅多に誰かが遭遇するわけでもなく、ぽつんと一人佇んでいる。何とも不憫だ。
こんな理由が想像出来るので、この語り手が言うような、何故ここに、という疑問はあまり感じない。
とにかく、その情景が実に印象的である、というお話。
「お役目」店の中で、いきなり出来立ての料理が出現している。
こいつぁ、かなり驚いてしまうだろう。
本にもまだ役に立ちたい、という思いが生じてしまう、というのは(想像だけど)、いじらしいものだ。
その本を見て作ると必ず美味しくなるレシピ本、是非手に入れたいものではある。
ただ、これだけいろいろなことが出来る力を持った本、レシピ通り作らなかった場合どうなるか、と考えるとちょっと怖い。
「天狗石」狸やら天狗やら、と何だか民話のようなエピソード。
一升瓶の消失と引き替えに現れる天狗石、蔦に絡まれて宙に浮く狸、と結構強烈な怪異が起きてはいるのだけれど、そうした全体の調子によって何だかほんわりとしてしまう。
持ち上げられた狸が怯えるでもなく、きょとん、としているのは何故なのだろう。
彼らにとっては驚くような理解不能なことではなく、予測の範囲内の出来事、なのだろうか。
こうして執筆陣を見ると、東北には怪談作家が比較的多いような印象を受ける。
久々に読めて懐かしかった平谷美樹なども、そう言えば確かに東北だった。
ここしばらく、凄いな、と思える本に出会えていない。
痺れるような体験に焦がれてしまう。
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黒木 あるじ/小田 イ輔 竹書房 2021年07月29日頃