今回もまた、面白い作品連発。
楽しみなのに、そう思うことが何となく不満、という矛盾した気持ちになってしまうシリーズだ。
「ノック音」最近、他の本でも報告されていた、被害者の認識を歪めてしまう悪意のある怪異。こいつはなかなか厄介だ。
一歩手前で正気に戻れたから良かったけれど。
友達などそこには居もしないのに、それがいるように思わされてしまう。どういう作用なのだろう。
「月」子供の時に母親から謎のメールが来て、それに従ったら母の首を見てしまった。
しかし、その記憶は携帯所持の時期と合わず、現実と合致しない。母親の遺品にあった携帯電話には同じ文面のメールが発見されたけれど、それは未送信。しかも、作成日はつい最近(一年ちょっとか)のもの。
全てがちぐはぐな内容で、ピースがうまく繋がらない。しかし、それこそがまさに怪談だ、という気もする。
夢だとしても一言一句変わらない文章、というのは怖ろしい。
「ありふれたもの」これは怪異そのもの、というより、この事例の発生原因が興味深い。
脳の損傷、それによる視野の異常。
それによって、怪しいモノが見えるようになり、それが回復すると共に見えなくなってしまう。
やはり、霊が見える、という現象の要因の一つとして、脳の問題が絡んでいることの一つの証であるように思える。
「ふりかけご飯」語り手の体験談だけなら気のせい、と言ってしまえそうにもなる話ながら、著者自身が実際に目の当たりにした、となると信憑性は高い。
明らかに無意識に行うようなものではない異常な行動だし、偶然ではないだろう。
一方で、毎日ふりかけに出来る程蝿が出続けている台所って、厭過ぎはしないか。
「いらない日」これは多分ただの偶然なのだろう。
しかし、ここまで見事に符合していると、それはもう怪談ではある、しかも好みの。
「宇宙人」宇宙人は、時間軸も我々とは異なっているのだろうか。折角力を披露したのに、タイミングを間違えてしまって信じてもらえなかったのは何とも残念だ。
ただ、よく考えると空中に映像を浮かび出させる、というだけでとんでもない話なのだけれど。つい論点がずれてしまってそれを忘れてしまう。
「鍵」よく言われるホテルの部屋の「御札」が鍵に付いている、というのはユニーク。
その大事な鍵を外に落としてしまったばかりに大変な目に遭う、という何とも気の毒な話。
ただ、嵌め殺しのサッシ、とあるのに、朝来た従業員は簡単に開けてしまっている様子。どういうことだろう。
「おかあさん」最短に近い文章量ながら、なかなかに怖い。
前世、というわけでもなさそうだし、一体どういう事情なのだろう。
「水死体の思い出」溺死の原因に、痣のような何か得体の知れないモノが取り憑いている、というのがあるのかもしれない。
これまで聞いたこともない話で興味深い。誰にでも見えるものでもないようだけれど。
「電話女」この話でも、いない筈の妹がいると思い込まされてしまっている。
霊界での最近の流行なのか。
ちょっと疑問なのは、元々廃墟の住所を入力したのも語り手なのに、それと同じ住所を指示されてそれに気付かないものか。慌てていたらそれも有り得るのだろうか。
怪異的にはただ威かされただけ、でもある。
「カレンダーに丸」自業自得とは言え、完全に邪魔者扱いされている父が何だか哀れでもある。
事実を突きつけられると理解はするようだ。しかし、学ぶ、ということは無いようでもある。
「されど」日本の神は、その何割かが祟り神。「御霊社」「御霊神社」に限らず。かの八坂神社だってそうだし。
なので、こういった事実があったとしても不思議ではない。
これは何重にも偶然ではあり得ない、というシチュエーションを造り上げており、明らかに「わざと」そうされたとしか思えない。
これは二度と欠くことなど出来ないわなあ。
「ささやかな葬儀」書かれている内容だけでは、怪異は一切ない。
名前や連絡先などは、何かの意趣返し、復讐の一つかもしれず、皆で示し合わせたことを否定できない。
この親戚に何かしら酷い目に遭わされた人たち、と考えることも出来そうだ。
ではそれは何なのか、この話の裏で何が起きていたのか、ということを考えると、別の意味で怖ろしくなってしまう。
それはそれで「怖い話」だ。
「万能感」この男性には、墓石が別のものに見えていた、ということか。
墓石の主が呼び込んだ、とも取れるけれど、だとしたら何故その前に性格を変貌させるようなことを起こしたのか、その意図が不明だ。
「鬼ごっこ」何だか後味がやけに寂しい話。気の持ちよう、という感じもあるけれど。
前提となる「十五歳未満立入禁止」というのが何とも妙だ。
その後の鬼ごっこについては、見かけない顔の子供達で、最後に滑るような早さで追いかけてくること以外、おかしなことは起きてはいない。滑るような、としているので、本当に滑っていたわけでも無いようだし。単純に真剣になった、ということかもしれない。
ただ、その前提の不思議さと哀しい余韻が独特な味を醸し出していることは確か。
何だか心に残る。
「サイレン」鍋の中にいる小さな救急車。
可愛らしいようでいて、歪んだ変な音のサイレンやその後の現実とのオーバーラップも含め、何とも不気味でもある。
この存在は一体何なのか。
「むおん」特定の怪談だけ全く聞こえなくなる。実に特異な現象だ。
唇の動きが変だ、というのも、実際にそうなのではなくて、語り手にのみそう見えてしまっている、ということも考えられなくはない。これまた認識の阻害だ。
書いたものだとどうなるのだろうか。それも気になる。
勿論、この「赤ちゃんの舌」という怪談の内容も。
「工事」実際に紙が残っているので、夢や幻では無さそうだ。
ただし、この話でも語り手には別のものに見えてしまっていた、という作用を及ぼしてはいたようだけれど。
このおじさんは何者なのだろうか。
「蛍光グリーンの蛇」そういうカラーの蛇は見たことがあるので、ペットが逃げ出したものであれば、いたとしてもおかしくはない。
ただ、この話の肝は違う。
蛇に噛まれてぶよぶよに膨れあがってしまう、というのは通常ではあり得ないし、行動も何だかおかしい。
しかも相手からは遊んだこと自体を否定され、翌日からは見たところ別人になってしまっている。
一体何の仕業で、どうすればそんなことになるのか、皆目見当が付かない。
もし入れ替わってしまっていたとして、何故誰もそれに気付かないのか。否、第一入れ替わりって何だ。どの時点で、どうして別人になってしまうのか。
何とも不条理で理解できない。でもそれが怖い。
「写メ」時折あるいじめの報い噺。多勝溜飲が下がる。こういった連中にはすべからく何かしらの罰が下ることを祈る。
機種を変えても、おそらくはアドレスを変えても届き続ける、というのは人為的なものでは無さそう。
ただ、年一回のみ、というのは相手の優しさ、だろうか。毎日送りつける、位で良いのに。何ならメールボックスが常にそれで一杯になるとか。
「はしご」神さまの罰はやはり怖い。強烈だ。
それでも、物にあたられただけで良かった。今回は警告、ということなのだろう。
ここで語ってしまったのは大丈夫、なのだろうか。
それと、具体的には■■が何なのか、当然気になって仕方ない。
「線香」この相手、一体誰なのだろう。別の人と間違えた、というには本人の前にも姿を現しているらしいから違うようだ。
しかし、簡単に五百キロを飛び越えられる存在なら、そんなに残念がる必要もなかろうに。
「指の感覚」起こした交通事故は軽度で人心にも影響は無かったようだし、そこで何を拾ってしまったのだろう。
しかも、最後には大量の出血まで。単に指を入れられた位じゃ左程出血もしないだろうし、何をされてしまったのか。
「蚊」転生した芸能人である蚊をあっさりと滅してしまった語り手。
まあ、蚊はいずれにせよそう長くは生きられないからそんなに問題は無いかと。
奇妙なのは、それを伝えてくれた存在が何なのか、ということ。
人の輪廻転生を知っているなど、超越的な立場の方なのだろうか。
でも、何か得体の知れないモノと同居しているかも、と思うと実に不気味だ。
「予金」これはすぐさま預けるべき。
意味があれば危機を回避できたことになるし、駄目だったとしても元々その予定だったのだから仕方がない。
いっそのこと10,000円位入金してみては。
うまくいけば、不老不死の存在となれるかもしれない。
祖母が一体どんなつもりでこれらの通帳を作ったのか謎だ。
「写真嫌い」別に死を呼び寄せたりする、という事例ではないのだけれど、この事件は語り手にとっては一生物のトラウマになっていることだろう。
勿論のこと、この現象がいかなるメカニズムによって引き起こされているのかなど、想像すら出来ないものだ。
こんな能力、絶対要らないし、当人も迷惑なだけのものに違いない。
「再会」この話で一番判らないのは、語り手が東京出張することを、幼なじみがどうやって知ったのか、というところ。
家族構成も知らないようだから、そう親しかった、というわけでもなさそうだし。
わざわざ呼び寄せて、何故彼に見つけてもらおうと思ったのだろうか。
しかも、電話に奥さんも出た、というのが更に不思議。納得の上の死だったのか。
「小さな鳥居」鳥居のサイズがどんどんと小さくなっていく、などという話は聞いたことがない。
この鳥居は、御近所なのか仲間内でなのか回されていたものなのだろうか。
何を祀っていたものなのかも気になるところ。
質の悪い神は、霊などよりも余程怖ろしい、という一例か。
「為来り」無人の部屋で将棋が行われている、というのは凄い。
しかし、その行事や出来事と語られている由来とが、微妙に噛み合っていない。
最後玉を池に投げ捨てちゃ駄目だろう、という気がする。
ショートショート怪談に何故面白いものが多いのか、平均点が高いのか、ということを考えてみるに、この手の作品では、じっくり描くことでじわじわと恐怖を募らせていったり、思いも付かない展開で読者を呆気にとらせたり、といった手法を使うことが出来ない。
なので、根本の怪異そのものが結構しっかりとしていてとりわけユニークであることが求められる。
しかも判らない、というケースも含めて判り易く(シンプルで)なければならない。
そういったところが、ショートショート怪談を面白くしてしまう、面白くなければ成立しない、ということにしてしまっているのかもしれない。
いずれにせよ、この一冊も本当にたっぷりと楽しめことは、このだだ長い感想からもはっきりとしている。
満足この上なし。
瞬殺怪談 死地posted with ヨメレバ平山 夢明/黒木あるじ 竹書房 2021年03月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る