渡部正和/「超」怖い話 隠鬼


 結構奇妙で新鮮な話が多く、読み応えはあった。
 ただ、どうもいろいろと判らない要素が残ってしまう話が多い。何だか書き切れていない、というか語られていないところに重要なピースが残されているようで、もやっとした気分になる。

 「抱擁」では友人も目撃している、ということで信憑性が高い。そして、一見守られている、というハッピーな話かと思わせておいて逆に怖いオチへと転じてしまう、という辺りが怖くて興味深い。何かあったら是非知りたいものだ。

 「奇祭」が登場してくる、という話は時折ある。しかし、このように自分はそこに一切辿り着けず、関係ない人間から繰り返しそれを知らされる、というのは何とも奇妙だ。しかもそこでの登場人物などから考えて、この現象は実際に体験している生徒たち、というより語り手に大きく関係しているようだ。言わば彼の存在が様々な人間に作用しているとしか思えない。一体これはどういうことなのか。謎は深い。

 「同居人」このところこうした部屋という程の大きさでも無い謎の空間が家の中にある、という話によく出会う。この話では怪異とこの空間に関係があるかどうかもまるで不明。それだけではおかしなもの、というものでも無いのだけれど、やはり家の地下に、高さ一メートルという入ることも難しい空間がひっそりと存在し続けていた、という絵を想像すると何とも空恐ろしい。漆喰まで塗っていたとなるとそれなりにしっかりと作り上げているものなので。

 「停電の日」ではさほど強烈な怪異に遭遇した、というわけでは無い。
 でも、明るくなったら見も知らぬ人の古ぼけた写真がぽつんと現れてくる、というのはなかなかに気味が悪い。写真という物理的な証拠が残っているのも興味深いところ。

 「山野夜話 第五夜」かれの話はどれも味わい深いものではある。
 中でもこの話は無言で花笠踊りを舞い続ける中年女性、という姿を想像するだけでも珍妙である。しかも、同じような話がかの「新耳袋」にも登場していた。今本を参照できないので第何夜であったかは不明ながら、特に印象深いエピソードだったので、あったことは間違いない。確かそれも若い女性などでは無く中年だった筈。そこがまた不思議で、かつ残念ながら絵にはならないな、と思って印象に残っていたところなので。
 何かこうしたタイプの怪異は定型化していて、あちこちで現れたりするものなのだろうか。

 「山野夜話 第八夜」もとても不条理で、最後はこちらも狐につままれたような話。しかし途中のスプラッターな体験は凄い。これまでもこんな強烈なものはほとんど無かったと思う。失踪してしまう、というオチにしても、それまでの体験がいわゆる「山に呼ばれている」といったようなものとはかけ離れているだけに何とも不思議だ。むしろ金輪際山には近付きたくも無い、と思えそうなものだ。

 これまでこの著者の話はどうも印象が薄いものばかり、と感じていた。
 それが、今回急に充実したものに。ここで取り上げていないものでも、いろいろと想像の拡がる話が沢山あった。
 文章力、というより元となる怪異自体が凄いものになっており、何故か引きがぐっと強くなったのであろう。怪談は創作では無い、筈なので。

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