渋川紀秀/恐怖実話 狂禍

 直前に読んだ本(「毒気草」)との落差がひどい。
 どうもこの著者とは相性が良くないのだろう。毎度感想としては厳しいものにならざるを得ない。

 冒頭ではわりと大ネタの予感を感じさせ期待しながら読み進める作品も結構あるものの、どれもまるで盛り上がらず、怪異も思った程の展開が無くて何だか尻すぼみに終わってしまう。まさに竜頭蛇尾。
 中には怪談と言うより都市伝説ものも混じっていて余計印象が散漫になる。
 危うく前とは真逆に感想一作品も無し、となりそうだったけれど、どうにか多少面白く感じるものは見つかった。

 「気前のいい友人」体験者は一体どこに行って何を食べたのか。気になるところだ。しかし、この話ではそれ以上に注目されるのは、クラブとタクシーの料金、個人が支払ったことになっているのだけれど、それは実際に払われていたのだろうか、ということ。もしそうなら、その金は一体どこから生まれてきたのだろう。

 「読書会」何だかちょっといい話、ということで纏められているけれど、血(らしきもの)の付いた栞、というのはどういう状況で生じたもなのだろうか。体験者は恐くない、と語っているものの、そういったことも、何か取り憑かれてしまっているから、と受け取れなくも無い。だとしたら、ほのぼのとした裏で何かが進行しつつある結構怖い話、なのかもしれない。そう考えると興味深い。

 「夜の蛙」子供の頃というのは結構残酷なことをやってしまうもので、かなりの数の虫を様々な形で殺したことは今でも思い出される。殺すことが楽しかったわけでは無いのだけれど。
 障子と泥だらけの服という物理的な証拠が残っている貴重な事例。祖母の口の中の蛙、というのも不思議だけれど、二年後に亡くなった、というのは祟りなどでは無さそう。あまりに時間が経ち過ぎている。

 残念な話の一例を挙げると、例えば「イマジナリーフレンド」。最初は存在するかと思っていた幼なじみが実は、という話かと思いきや、実はとぼけていただけだという。事件自体は結構な出来事だけれど、肝心の怪異は友人が時折その子を見てしまう、ということだけ。しかもその語りの中で幻覚だろうとまで言わせてしまっている。失敗ばかり、というのもそのせいというよりそうした鬱状態にある可能性が高い。何しろ、主犯格の男には全く何も無いようなので。ほとんどただの想い出話にしかなっていない。怪談としてはもう破綻してしまっていると感じてしまう。話の雰囲気は良いだけに何とも腑に落ちない。

 怪談の面白さとはネタの凄さなのかその料理の巧さなのか、考えさせられるものともなった。

元投稿:2020年5月頃

恐怖実話 狂禍posted with ヨメレバ渋川 紀秀 竹書房 2020年02月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る