春南 灯/北霊怪談 ウェンルパロ

 竹書房が怪談に一層本腰を入れて「怪談文庫」を創設してくれたのは嬉しいところながら、毎月5冊はちょっと張り切り過ぎ。
 現状月3冊が予算限度なので、残りは一旦購入保留、ということに。
 それらは、HMVが35%ポイント還元キャンペーンを実施したタイミングでまとめ買いすることになりそう。年1~2回の不定期開催ながら。

 それに合わせて著者の開拓も必要に迫られたのか、これまで聞いたことの無い作者が次々と登場してきている。
 以前の月3冊ペースでも人によっては明らかにペースオーバーで相当に薄味の作品に仕上がってしまっているものもあったので、当然とは思いつつ、全体として質の維持・向上が本当に大丈夫なのか心配にはなる。
 勿論新著者にも逸材が現れるやも知れず、そういった期待も籠めつつ見守っていくことになろう。あまりに酷いようなら、竹書房との付き合い方自体を見直す必要があるかもしれないけれど。

 てなわけで、この作者も全くの未知。
 北海道の方なので、これまで無かったアイヌ絡みの話などもあるのが特徴か。
 全体に現代怪談と言うよりも民話調のテイストが感じられる。

 「天狗の棲む島」海に落とした物が、無事に濡れもせず名乗りもしないのに戻ってくる。なかなか強力な事件だ。そこから突然民話のような話に繋がるのが不思議。優しいばかりでは無い、ということか。

 「ねこじい」猫の振る舞いについては、語り手の見方にバイアスがかかっていたとも思えなくは無いものの、丁度誕生日に亡くなってしまうことと良い、ただの偶然では済ませ切れない因縁も感じられる。

 「禁帯出」この話では次々と不思議なことが起き続ける。何故そんなことが生じるのか、それぞれ理由ははっきりしない。ただ、そこに訴えたい何かがあったであろうことはひしひしと伝わってくる。これが起きた日というのが何か関係しているのだろうか。

 「ガーコ」これも「禁帯出」同様連続して怪異と覚しきことは起きるものの、それらの因果関係、理由などは皆目見当が付かない。稲川系怪談と言えるかもしれない。
 ただ、その不条理さが逆に何だか妙に残る。

 「幽霊飴」以前、確か墓前に供えたものを食べても全く味がしなくなっている、という話を読んだか聴いたかしたことがあるような気がする。
 また、部屋におかしなものがいないかチェックするために日本酒をコップに入れて部屋の真ん中に置いておくと、何かあればそれが水へと変じてしまっている、ということも聞いたような覚えが。
 旨み・味というものはあの世へも持っていけるものなのだろうか。

 「とぷん」ビルや崖から飛び降りを繰り返すヒト、というのは時折登場する。しかし、それが自分だった、というシュールなオチは聞いたことが無い。
 不謹慎ながら、それが語り手の言う通りに未来の姿なのかどうか、知りたくて仕方なくなる。

 「ウェンルパロ」表題作でもあるこちら、直接アイヌに関わる、というわけでは無いけれど、アイヌ語の地名に纏わる話でもあり、先にも書いた民話を思わせる典型的な作品となっている。
 洞窟の前で亡くなろうとする人を呼び止めたばかりに、かえって怨まれるような事態になってしまう。お互いにとって何とも不幸なことになってしまったのは可哀想な話。
 ただ、北海道の田舎、沖縄と並んで、こういったことが起きても違和感を感じない土地柄ではある。

 強烈なもの、とりわけ怖い作品、というのは見当たらないものの、独特の味がある話は多い。小田イ輔程ではないにしろ、やや不条理系でもある。
 これで出し尽くしてしまっていなければ良いのだけれど、地方の特質も活かしつつ、今後に期待したい作家・作品ではあった。
 因みに、この作者も性別が判らない。やはり女性だろうか。
 別にどちらだからどう、ということでもないのだけれど、怪談を読む場合、当然頭の中に話の情景を思い浮かべる。
 語り手がある場合、ほとんど男女、年代などが明かされているので、それを手がかりにぼんやりと思い浮かべれば良い。
 しかし、中に幾つかある著者直接の体験となると、現状そのイメージを浮かべようがないのだ。先に挙げた「幽霊飴」にしても、女性が一人想像を巡らせる図と、おっさんが妄想をしつつある場、というのでは、絵面が全く異なってくる。
 そのためにも著者の性別と、大まかにでも年代の目安があると有り難いところだ。

元投稿:2020年2月末頃

北霊怪談 ウェンルパロposted with ヨメレバ春南 灯 竹書房 2020年01月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る