湘南という一地域に絞り込んだせいか、この土地の個性によるものか、はたまた著者の取材力の賜物なのか、これまでの御当地ものとは比べものにならぬ程地域密着型の怪談集に仕上がっている。
では怖いか、と言うとそうでも無かったけれど。
「湘南モノレール」懸垂式モノレールの下にしがみついている霊。
想像するとなかなかの絵面だ。
本当に寺があるからかどうかはともかく、最後まで行かず落ちてしまう、というのも面白い。
そいつがいると車内が獣臭くなる、というのはどうしてなのだろう。人間の姿はしているけれど、本来は獣絡みのモノなのか。
「江の島の恋人達」鍵を付けるのを邪魔する髪の毛。
男の方の母親の生き霊、なのだろうか。
最後のエピソード、語り手に呼びかけてくる声だけの存在。
その内容とトーンが何だか面白い。
こちらは、既に亡くなっているのか、これも生き霊なのか、あるいは全く別の何かなのか。
「鴨男」これはなかなかユニーク。
水面上に浮いていて、鴨のような声で鳴き、最後には手で羽ばたきながら飛び去ってしまう。
物理的にはあり得ないけれど、そもそもそうした範疇には無いし。
その姿、何だかちょっと見てみたい。
「サイノカミ」元の場所を離れ難く、帰りたいと懇願する道祖神、というのは何やら頬笑ましくも感じられる。
とは言え、火事を起こされては堪らないけれど。
「オチョバンバの石碑」石碑に触ったことによる祟りが凄い。
人の力によらず引っ張られ引き摺られて、危うく線路に連れ込まれそうになってしまう。
友人が助けてくれなければ死んでしまっていたことだろう。
ここまで物理的な攻撃が加えられる、というケースはあまり無い。
「平塚のアパート」廃墟を訪ねることで高熱を発し、熱のせいかもしれないけれど、自室で霊を見てしまう。
撮影した写真にも同じ霊が写っていた。
何より怖いのは、これを最後に、友人が行方不明になってしまったこと。
どうなってしまったのだろうか。
ただ、一方で語り手は何故無事だったのかは気になるところ。
この本でも、著者の好みか取材不足かは不明ながら、怪異の謎が解かれることも無くえらくあっさりと終わってしまうものが結構ある。
それが物足りなさに繋がっているように感じる。
何だか惜しい。
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神沼 三平太 竹書房 2021年10月29日頃