黒木あるじ/怪社奇譚 二十五時の社員

 楽天の期間限定ポイントを有効利用するため、竹書房文庫以外の怪談本を次々と購入し続けている。
 まずは郷内心瞳氏や中山市朗氏の作品を収集し終え、この頃は黒木あるじ氏を手掛けているところ。
 ただ、彼は結構あちこちからけっこうな数出版しているため、なかなか終わらない。
 この本も「だいわ文庫」というマイナーなところからの一冊。
 世に出たのは2015年というから、大分前になる。
 会社に纏わる怪談に的を絞った企画もの。この著者はこうしたテーマのある作品集が好きなようだ。
 しかし、読む方からするとテーマが限られてしまうと、どうしても似たような話が多くなるし、驚くほど意外なネタ、というのもほぼ紹介されない。
 何だか物足りなく感じてしまうことが多くなってしまう。
 この本も例外ではなかった。

 「マップ」スマホアプリを使う、といういかにも時代を反映した怪談。
 ただ、この話、印象に残る、というよりも何だか不審に感じてしまい取り上げた。
 この会社は東京にあり、先輩社員が自殺したのは大阪の倉庫。
 まだ亡くなった、という一報が入った段階で、亡くなった正確な場所をこちらに伝えたりするものだろうか。直属の上司、というわけでもないのに。
 しかも、この上司、地図を見ただけでピンの立っているのがその場所だ、と確認出来ている。そんなに土地勘があるものか。まあこの上司が大阪出身もしくは大阪に住んだことがある、ということかもしれないけれど。
 ちょっと不思議な話でありながら、そういった点が気になってしまい素直に受け取れなかった。

 「おとなりさん」後半のエピソードが興味深い。
 会社の玄関前に置いていた筈の車が、何故か駐車場に移動されていた。
 確かに普通ではない。
 ただ、ちょっと気になる点もある。
 フロントガラスに卒塔婆がへばり付いていた、という。
 その表現からすると、車自体一度水没し、そこで卒塔婆と合体したと考えられる。
 であるなら、たまたま駐車場に流れ着いた、という可能性も捨て切れない。
 語り手は流されて高台に着くなど考えられない、と断言しているけれど、そうだろうか。
 流れの方向によっては高地に向けて押し寄せることもあるだろうし、そこで高台故に引っかかり、そのまま留まった、ということも考え得る。
 そうなると、怪異などまるでない、ということになってしまうけれど。
 また、前半のエピソードについては、霊も眩しいと苦情を訴えに来る、というのは可愛くも感じられる。

 「枯」オフィスに植物を置いておかないと社員が突然死してしまうオフィス。
 何とも怖ろしい。
 まあ、明確な因果関係が証明されているものでもないのだけれど、一か月で7人、というのは流石に尋常では無い。
 その理由や因果についてまるで判らないのが残念ではある。
 とんでもない惨事の原因となったコンサルタントには何もなかったのだろうか。

 「死神さん」確かに本当に怪談なのかどうかは疑問もある。
 でも、怪談でないとしたらむしろ凄い。
 80人となると、もう偶然と考える方が難しい。
 ただ、何故そんなことになってしまうのか、何か原因や因果はないのだろうか。
 最後のエピソードについては、関連会社の出向となったからといって、取引先、とは違うのではないか。転職ならともかく。

 手堅くまとめられ、きっちりと読ませてはくれるものの、冒頭書いたように、怪異自体にもう一つそそられないものが多く、今一つ盛り上がりに欠けていた。

怪社奇譚

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黒木あるじ 大和書房 2015年09月

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