何だかそこはかとない怪談が多い。
印象に残った話にしても、強烈なものは皆無。
どうにも物足りない。
「ものが長くはもたぬ家」何でもすぐに腐ってしまう家。絶対に住みたくない。
むしろ、少しでも長く保たせられないか、と日々腐心している位でもあるし。
その部屋で祖母に何があったのか、気になって仕方がない。
「夕闇の路地を走るのは」現実ではあり得ないような祖父に出会してしまう。
そのことよりも、その話をした際の祖父の反応が異常。いきなり卒倒するなど、普通ではない。
まあ本人に語る気はなさそうではあったけれど、何かしら心当たりがないでもなさそうなこの事件の謎、一片の手掛かりすらもないのが残念。
「一歳児」全ての幼児が一斉に一点を見つめて無表情のまま反応する。喜んだりしているわけでも無いようだ。
その図を想像するとなかなかに怖い。
語り手の宇宙人のようだ、という解釈はあまりに突飛だし、幼児にしか姿が見えず声だけ、というのもそれらしくない。
「ぬくもり」タラコは一体どこへ行ってしまったのか。
これも関連していそうな怪異が重い足音だけ、というささやかなもの。
その因果関係も正体もまるで判らない。
ただ、異世界消失ものはやはりどこか心に引っ掛かる。まるで不条理なだけ余計に。
しばらくは温もりを感じていた、ということは、別次元なのか異空間だかに囚われていて、それが実はこの世界のすぐ近くに存在している、ということなのだろうか。
「移植」これは、面白かったというわけではなく、怪異というか出来事の解釈に疑問があって取り上げた。
ここで語り手か著者かは知らんが、祖母が戒めのために痕が残るようにしたのでは、と疑っている。
しかし、だとすると、彼女が祖母を目撃した際の反応がおかしくはないか。
手を握っている様子も穏やかなようだし(彼女が不審に思っていない)、彼女に対して笑顔を返してきた、という。
そこからはそういった悪意、怒りのようなものは見えないし、生前の態度もそれらしくない。
語り手がそう思っているのだとしたら、自分こそが己の愚考を許せない、という気持ちに囚われてしまっているのではないか。
「天狗」天狗が亡くなった人の霊のようなものである、という解釈は興味深い。勿論全ての天狗がそうだ、ということでもないのだろうけれど。
ただ、天狗伝承の残る土地柄だから、とは言え、語り手が見たものを天狗、と呼ぶのはちょっと無理矢理という気もする。
白装束で錫杖のような音がする、という以外、鼻が高いわけでも無さそうだし、天狗を思わせるところはあまりない。作品中に描かれていないだけなのだろうか。だとしたら描写不足だ。
当事者が真相を語ってくれない話が多く、どうにもすっきりしない。
脈絡無く突如遭遇してしまう、というケースも結構あって、余計に唐突感が拭えない。
何だか謎だけがどかんと置き去りにされてしまったような印象だ。
肝心の怪異自体もありきたり、というわけでは無いものの、いかにも軽いものばかりで、インパクトを欠く。
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黒 史郎 竹書房 2021年09月29日頃