またしても郷内怪談。
この本は、前作(緋色の女)を引き継いで、知人女性から預かったノートに記された怪談を紹介する、という躰。
なので、今回もいつものテイストとは異なるものの、それなりのレベルの怪談が集まっている。
厚さが通常の倍位はある。
しかもこのシリーズは竹書房怪談文庫ものよりも活字がずっと小さいので。読み応えは充分。
それでも、面白いので結構あっという間に読み終えてしまった。
「呼び水」蔵の天井からぶら下がる脚、という王道とも言える怪異の後、家族がいろいろな出来事に相次いで見舞われるようになってしまう。
その原因と目されるのが、何故か土蔵の棟木の上に置いてあった木箱に収められた不気味な人形。それが本当かどうかは判らないものの。
そんなものを一体何故そんなところに安置しておいたのか、皆目見当が付かない。
誰が行ったのかも。
気味が悪いことこの上ない。
「あれは誰?」怪異としては、見知らぬ女の子の首がプールの水面に現れ、こちらを見つめたまま沈んで消えた、という捻りは無いストレートなもの。
しかし、描写の巧さもあってか読んだ瞬間にこちらまで心底ぞっ、となった。
その場にいた皆に見えていたらしい、というのも貴重。
「足立区の異景」大変好みの異世界接続譚。
そのあまりに異様な風景や現れた怪しい存在などからすると、単にどこか別の場所や時間、というのでは無く、何か有り得べからざる世界へと繋がってしまったようにも感じられる。
工場の裏手にある寂しげで何気ない古びたドアが舞台、というのもポイントが高い。
一体どこに出てしまったのだろう。
そして、この手の話を聞くといつも想う。そのままそちらに一歩を踏み出していったらどうなってしまうのだろう、と。
まあ、この話の場合、いきなり何かに襲われているのでそんなことはしないだろうけれど。
「水色の部屋」これは珍しい話。
友人の部屋に入ってみると、何故か一面が水色になってしまっている。しかも、突然それが元に戻る。
異世界もの、というわけでは無いし、何か霊的な臭いも全くしない。
まるで理解不能。
ただ、体験者の脳内、色覚に一時異常を来してしまったことが原因、という可能性をちょっとだけ考えてしまう。
この怪異と、部屋の住人の死に関連があるのか、判断は出来ない。
水色だから水死もしくは水死だから水色、というのはあまりに安易、というかこじつけすぎのようにも感じる。
「不平等」仕舞で突然の俄雨に降られびしょ濡れになって帰宅した、筈が、実は全く濡れていなかった。
姉妹揃っての経験、というところが不思議さを増す。気のせい、もしくは心の問題、という可能性を否定してしまうからだ。
雨が降る直前の「空が壊れる音」というのも気になる。
一体どんな音なのだろう。想像が付かない。しかも、それがこの現象の重要なヒント、なのだろうか。
「存在の証明」何かと評価の分かれるこっくりさんネタの中では、なかなか強烈な事例。
大きな地震に見舞われる、という話は聞いたことが無い。
しかも、こっくりさんを行っていたメンバー全員は勿論、横で見ていた語り手まで巻き込まれている。
気になるのは、この揺れで、何か落ちたり壊れたりはしていなかったのか、ということ。
話の中では全く触れられてはいない。
それがあるなら何らかの物理的な現象がこの場で起きていた、ということになるし、そうでなければ、おそらく全員の意識だけが振動を感じてしまった(感じさせられた)、ということだ。
そこは結構大きな違いだ。
「首ふわり」これもいわゆる幽体離脱ものの一種、のようでかなり趣は異なる。
気がついたら自分の体を見下ろしていた、という話は時折聞く。
しかし、見下ろした自分の体に首が無くなってしまいっているなど、およそ聞いたことが無い。
要は首が物理的に離れて浮いてしまっている、ということになる。
幽体などではなく、首離脱、だ。
この怖さは幽体離脱の比では無いだろう。
もし戻れなかったら、そのまま生首になってしまうのだから。
「どこから落ちた?」二人寛ぐ部屋の中に、いきなり古びた日本人形が落ちてくる。
これもとんでもない事象だ。
怖ろしいことこの上ない。
二人で捨てに行っているのではっきりとした物理現象のようだし、体験者が複数、というのも信憑性を高めている。
この不条理感が堪らない。
「三つ編みに」心霊スポットを訪問したら、いつの間にか髪の毛が三つ編みにされていた。
お茶目なお化けだ。
最後の描写がちょっと理解し辛いのだけれど、自分の髪と、誰か知らない者の髪の毛が一緒に結い上げられていた、ということだろうか。
だとしたら、尚更気味が悪い。
「いるはずない」ドッペルゲンガーのようではある。
しかし、まず自分が見てしまっているし、服装まで一緒、というのは不思議。
こうして語っている、ということは何事も無かったのだろう。
となると、ますますこの存在が何であるのか気になる。
平行世界の交錯、もしくは僅かな時間のずれが起きてしまったのだろうか。
「原因は」頻発する金縛り、というも嫌だけれど、何よりも覚えも無く部屋に存在していたお岩さんの写真、というのが不気味過ぎる。
何でそんなものがうちに。
「匍匐前進」位牌が無いからといって、何故薄笑いしながら畳の上を夫婦揃って匍匐前進してくるのか。気味が悪過ぎるではないか。
その光景を想像すると、ちょっと滑稽にも思えるけれど、それを上回ってやはり怖い。意味不明なところがまた。
生前を知っている家族なら尚更だろう。
こんな行動を起こしてしまう原理とはいかなるものなのだろうか。気になる。
そもそも、位牌を紛失してしまうってどう言うこと。
普通あり得なくないか。
「殺された」友人が突然死するその場で見せられてしまったとんでもない怪異。
夢とも思い難い状況だ。
理由もなくぽっくりと逝ってしまう事件の裏にはこんなものが関与している、ことがあるのかもしれない。
知ってもどうしようもないけれど。
「もう遊べない」死んだ筈の友だちが遊ぼうと誘いに来る。しかも、自分は死んだことを思い出せない。
母親にまでその影響が及んでいなかったのが幸いした、のか。
寂しげに消えてしまった友だちのことを考えるとちょっと可哀想にも感じてしまう。
しかし、そのまま出掛けてしまったらどうなっていたのだろう。
そう考えると結構怖い。
「あなたもです」最初、元同室の患者の急変を知らせてくれるなんて、亡くなってからも優しいこと、と思った。
しかし、よく考えてみると、その患者、何故急に亡くなってしまったのだろう。
もしや、その死を齎したのが彼だとしたら、そう考えるとむしろ怖ろしい話に変わってしまう。
ここでも複数の人が目撃している上に、その死を皆思い出せずにいた。
霊の中には、自分の死を忘れさせてしまう力を持つタイプがいるのだろうか。
「マガイモノ」仏像(のようなもの)というのもなかなか厄介な代物らしい。
迂闊に手を出さない方が賢明だろう。
まあ、骨董全般に言えなくもないのだけれど。
いきなり顔面が割れてしまった、というのは偶然の可能性はあるにしても、その方がむしろ奇蹟に近い。
「狂乱の元」ここでも、人魂のような謎の球体に襲われた女の子が、暴れた挙げ句その日のうちに亡くなってしまう。
若干タイミングは異なるものの、「殺された」同様いわゆる取り殺される、という事件。
こうなると、いつでもどこでも油断が出来ない。
とは言え、この話にしても、回避のしようは全く判らない。
「輪郭」煙草の煙で輪郭が浮かび上がる、という霊は珍しい。
実はそういったモノも結構いて、気付かれていないだけなのだろうか。
その存在を発見した途端、独りでにブランコが動き始める、というのも不気味。
「毒舌人形」なかなか気の利いた返し。
実に冷静な判断だと思う。
怖くは無いけれど、何だか胸のすく話ではあった。
今回も一応連続して取材した話、ということになっている。
にしては、あまりにレベルが高い。
まあ、途中二度程急に質が低下するようなのだけれど、それらにしても、あらすじを読むと、もう少しちゃんと内容を知りたくなるようなものもあった。
元々の枠物語自体、相変わらずホラー映画を彷彿とさせる凄まじさ。
そんなに凄い事件が一介の拝み屋にそう何度も起き続けるものだろうか。
全てが繋がっている事象であるにせよ、出来過ぎとも感じてしまう。
否、話としては面白いのでそれはそれで魅せられてしまうのは間違いない。
ただ、一応実話怪談、というのを売りにもしているので、となるとどうもすっきりとしなくなってしまうのも確かなのだ。
そこはもうフィクションとして純粋に楽しめば良いのかもしれない。
今回、ついに今年発売の作品に追いついてしまった。
やはり話は全く完結しておらず、むしろ次こそ本題、と思えるような振りで幕を閉じてしまっている。
これまでは一か月毎に新作を読めたので前作の内容をまあ結構覚えていられた。
しかし、次はそうはいかない。また来年夏までお預けとなってしまう。
何とも残念でもあるし、もうほとんど忘れてしまうのでは、と心配でもある。
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郷内 心瞳 KADOKAWA 2022年07月21日