これまで、都道府県単位のご当地怪談は数多出ているけれど、市町村レベル、というのは初ではないか。
それでも、八王子は東京近辺では名高いスポットを多数有する地域ではあり、他所の御当地ものに引けは取らない。
この本では、市内各所に因んだ怪談ばかりを集めており、そういった地域感は色濃い。
ただ、残念ながら著者の怪談は基本あまり怖くない。
それはここでも変わらず、印象的な話は多くなかった。
「鏡の噂」鏡を見ると霊が映り込んでいる。
その手の話は数あれど、この話は怪異が何だかずれてしまっていて面白い。
まず、噂になっている場所で何か見えるわけではなく、それから家に帰った晩に異変が起こること。
そして、見えるのが霊や化物ではなく、肝試しに先に行った先輩たちが見えてしまう。
一方でその後高熱を出してしまう、というお約束は欠かさない。
一体、こうしたことが起きるメカニズム、というのはどうなっているのだろう。
「廃病院」廃病院を訪れた後、友人は行方不明になり、兄は亡くなってしまう。
何とも怖ろしい。
ただ、同じような行動をして、何故全く違う結末を迎えるのか、語り手は何故大丈夫なのか、彼らが遭遇した怪異と悲惨な末路とが繋がっているにしては異質過ぎないか、など疑念も多く残る。
「電話ボックスに独りきり」巷間言われていた何かが見える、という怪異では無く、むしろ入っている人が写らなくなる、というのは不思議。
その後の病気は偶然、と考えるのが自然だろうけれど、何かしらの因果を感じざるを得なくなってしまう、というのも確か。
「呼ばわり山」失踪していた伯父夫妻と、神社の御利益か再会できたけれど、その二人も死んでしまった息子との再会の御礼に参拝に来た、という。何だか入れ子のような状況でややこしい。
しかも、すぐに消えてしまい、既にこの世の者では無い可能性も。
「肝試しの顛末」現場で体験した怪異自体はささやかなもの。
でも、その後の友人の言動は不気味だ。
最終的には命まで奪われてしまったようで、次第にエスカレートしていく、という珍しい怪談。
ただ、友人とは言え、母親がそんな凄絶な死に様を教えるものだろうか、という疑問はある。
心霊スポットメッカであるせいか、肝試しに関わる怪談がやたら多い。それが特徴的なところか。
これまで、道了堂跡、というのは八王子城跡の近くもしくは同じ場所にある、と思っていたので、市内でも大分離れたところにあると知って驚いた。
誰か、それこそ有名な稲川氏辺りが、一緒の場所として語っていなかっただろうか。
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川奈 まり子 竹書房 2021年08月30日頃