このところ、二冊に一冊は御当地もの。
あまりに多過ぎるのもどうなんだろう。たいして地方色が感じられないものも多いし。
この本では、群馬ならでは、というものといわゆる通常の怪談が適当にミックスされており、なかなか良い按配。
興味深い話も結構載っていた。
「二分の一の教習所」教習車がそのエリアに入ると、しばらく戻ることが出来なくなり、その後教官も生徒も不幸な結末を迎えてしまう。
それだけでなく、その話をした教官まで命を落とす。
これでも本来の出来事の半分程だという。勿論、全貌が知りたかった。
ここで不思議なのは、何故教習車なのか、ということ。
その辺りで過去教習車絡みで何かあったりしたのだろうか。
また、これは実のところ教習車に限った怪異なのか、というところも疑問。
一般の車や人には何も無いのだろうか。
語り手に起きた不幸は何だかまるで質が違うので、ただの偶然としか思えない。明らかに余計だ。
「噂のトンネル」巨岩が転がり落ちた音や振動を感じ、その姿も見たにも関わらず、それが一瞬の内に消えてしまう。
しかも、現場の皆が見ていたそうなので、その信憑性は高い。
やはり地鎮祭などは疎かにしてはいけないのかもしれない。
こうした話を聞いてしまうと、「黒保根」という地名も何だか不気味に感じてしまう。
「五月の東雲」黒髪の塊が襲ってくるなんて、怖ろしいことこの上ない。
ある種人型より凄いだろう。
また、貴重なのは、怪異に殴りかかることが出来、去った後に本物の黒髪、という物理的な跡を残していったこと、である。
もし殴り勝っていなければ、翌日やられてしまった男性のようになってしまっていたのだろうか。
「真夜中の変化球」レーザーディスクが勝手に宙を飛び、ブーメランのように襲ってくる。本当であれば一級の事例だし、この代物かなりの重量物なので、破壊力も抜群だ。
直撃されたらかなりのダメージを食らってしまうだろう。
ただ、あまりにとんでもない事態なので、俄には信じ難い。否、これを信じないと実話怪談など成立しなくなってしまうのだけれど。
基本レーザーディスクはアナログレコードのように紙ジャケットに入っているもの。
ただ、レンタルされているものは見たことが無く、確かにそこでは保護のためケースに入れられていたとしてもおかしくはない。
こういった攻撃を仕掛けてくるような輩が、高熱を出させる、というのは怪異のタイプが違いすぎるようにも感じる。偶々ではないか。
「太田の魔犬」この話、どうにも筋がちぐはぐで辻褄が合わず、すんなりと繋がってこない。しかも、ほとんどの内容は怪異かどうかも不明。
怪異の肝を捉えられていない気がする。
にも関わらず、どうにも何だか妙に引っ掛かる。
凄く厭な感じが、ぞくぞく伝わってくるのだ。
おそらくこの怪談には、語られていない部分が結構ある、もしくは隠された因縁なり土地の謂われなりがあるのではないだろうか。
とにかく、どう考えても犬に原因があるわけでは無さそう。
むしろ犬は何かと常に闘ってくれていた存在だろう。最後はやられてしまったけれど。
「神社でコスプレ」神社の境内に犇めき合う、江戸~昭和初期頃の男女。
一体何者なのだろう。
時期的に考えて、何か特定の事件や災害によるものではなさそうだ。
それがぎっしりと存在しペンギンのコロニーのようにじりじりと廻っているという。
その目的は何。
しかも、墓場などではなく神社である、というのも妙。
「マタンゴの森」「マタンゴ」えらく懐かしい。
特撮映画、と言いながら、今で言う特殊メイクをする位で、いわゆる怪獣が出て来るわけでもない。でも結構怖い映画で、かなり好きだった。結局ここで出現するのは、マタンゴでも何でもなかったけれど。
最後を飾る長編、ということで気合いの入った力作。
最初に登場する子どもがパンチの効いた外観、地面から生えている、という特異なシチュエーション、定まらない視点、気味の悪い歌、と盛り沢山でサービス精神に富んでいる。
その後には群衆まで。
しかも、実はその森自体既に存在していなかったこと、森を教えた覚えもない、ということ、などという不思議もある。
もっとも、確認するまでに数年経っているので、単に相手が忘れてしまっただけ、ということもあり得るけれど。
元々あった森で起きていた事件も陰惨で、むしろこれが一番怖ろしい。
どうも取材不足なのか語り手に問題があるのか、何だか話が核心を突いていたいようなもやもやする内容の話も結構あった。
あまり突っ込み過ぎて自説やら余計な歴史解説などを加えられても鼻白むばかりではあるのだけれど、やはり一級の書き手は検証や推敲もしっかりしているようで、クリアにきちんと出来ているのが当たり前になっている。
もっとその辺りを学んで欲しいところだ。
とりあえず、それなりに楽しめた一冊ではあったけれど。
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戸神 重明 竹書房 2021年06月29日頃