営業のK/闇塗怪談 朽チナイ恐怖

 人によって評価の分かれる作家のようだけれど、自分とは嗜好性が合うのか結構興味深く読める。
 今回も印象的な話はそこそこあった。

 「落ちている髪」窓一面に貼られた髪の毛。想像するだに気持ち悪い。
 この霊は、息子が部屋を出た後に棲みつくようになったのだろうか。それとも以前からいたのか。息子さんにも是非訊いて欲しかったところ。
 何者でどうしてそこに居るのかも、全く不明だというのも不気味だ。
 この話は著者自身の体験なので、信憑性は高い、著者を信じるなら。

 「呪いの顛末」呪いの効果も強烈だけれど、その見返りもまた凄まじい。
 しかし、体が炭素化して生きていられる、など本当に可能なのか。
 著者自身が確認しているので、嘘、では無さそうだけれど。

 「四日目の祭り」こういう奇祭・奇習に纏わる話も好み。
 集落の全住民に関わる、結構大がかりなことの上に、ごく一部とは言え、目撃者がいるのも貴重。
 現代ではこのようなことをきちんと守れるとも思えないのだけれど、この風習は一体どうなっているのだろう。今を是非取材して欲しかった。

 「見つかった遺体」この事例、結構あっさりと書かれているので印象がちょっと弱いけれど、よく考えるととんでもないネタだ。
 海で亡くなった筈の遺体が、山、しかも北アルプス山中の岩壁に挟まって見つかる、などどうしたらそうなるのか、全く見当も付かない。
 強いて想像するなら、実は遭難時点では亡くなってはおらず、何かの事情か記憶喪失などによって戻ること無く暮らした挙げ句に登山に向かってそこで事故を起こしてしまった、ということも考えられなくはない。
 でも、それってむしろ怪談よりも現実味の薄い可能性には思える。
 父親自身は、こうなる運命を悟っていたようだ。その理由が何としても知りたかった。
 怪異の本質に、全く辿り着くどころか近寄る術も無いのが何とも残念。
 海で(もしくはそれ以外の場所で)どんな目に遭ってしまったのだろう。

 「禁忌のバイト」著者自身も体験している話ながら、あまりに凄過ぎて、どうも直ぐには信じ難く感じてしまう。
 マンション中に無数の霊がいる。それは一体どこから来た何なのか。
 霊の姿は特に書かれていない。それぞれ別の霊、ということでよいのだろうか。年代や状態(健常体風なのか、怪我や損傷が見られるのかetc.)なども不明だ。
 とても前の住人が殺されたから、という理由で起こるような現象では無い。
 むしろ、何か相当に呪われた土地であったか何かで、そういった事件もその場の空気、というか力が呼び寄せたもの、と考えた方が納得いきそう。
 著者によるとマンション全体がヤバイ、そうだし、他の部屋では事件などは無かったのだろうか。皆退去してしまったとしか書かれていないけれど。

 後半力尽きた、と言うかネタが切れたのか、話がぐんと弱くなってしまう。
 取材不足なのか、怪異の本質に迫れていないケースが多い。
 仕方ないところもあるけれど、何だかもやもやしたものが残る。

 「俺」口調はちょっと気になるところはあるけれど、余計な語りや分析、講釈が入るわけではないので、左程気にはならない。

 体験者に悲惨な結末が訪れてしまう話も多い。
 不謹慎ながら、怪談としてはより重みが増すし、当然印象は強くなる。
 ここも好悪が分かれるところながら、読み応えには繋がっている。

闇塗怪談 朽チナイ恐怖posted with ヨメレバ営業のK 竹書房 2021年06月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る