このところ次々と購入してしまったので、この著者の作品集が続く。
まあ、いずれも読み応えがあって外れはないので、むしろ歓迎できる状況ではあるのだけれど。
今回はまた基本本線一本に集約された一冊であった。
基本的にちょっと腑に落ちないのは、何故ここまで桐島加奈江を怖れているのか、ということ。
元々夢の中の存在だと思っていたモノが現実に姿を現したとなれば、恐いのは確かだろう。
しかし、とりあえず出くわした、というだけで何かをされたわけでも、脅されたわけでもないのだ。
追いかけっこを強制されるにしても、追いつかれてしまったところで大したことをされてはいない。
必要以上に怯え忌避する理由がよく判らない。
まあ、これはその現場を見たわけでもなし、おそらく相手から放射されている邪気、その場の空気が、相当な危険を感じさせるものだったのかもしれない。
それらしい描写はなされているし。
ただ、その後もこの構造に変化が無い。
忘れた頃に加奈江が姿を現し、追いかけっこをして最終的には何とか逃げ延びる。
その繰り返し。
そのシチュエーションは次第に熾烈なものにはなっている。サスペンスとしては見応えを増してはいる。
とは言え、途中からそれ程酷い結末にはならなそうな予感がしてしまうのも確か。
結局何だったのかも判らない。
それが当然、とは思うけれど。
著者自身は自分の「もう一つの自我」と解釈しているけれど、それが実体化する、というのは妙な話だ。
最後に全く違うエピソードが登場し、その影響で加奈江が完全に消滅してしまう、というオチはなかなか。
今回もどうも出来過ぎ、という感を拭えないところでもあるけれど。
本編から派生的に描かれている他のエピソードは、どれも興味深いものばかり、という感じだった。
「立体派の風景」亡き人の魂を憑依させて語らせる筈が、とんでもないビジュアルを見せてしまった故人とは、一体どんな人だったのか。
それらの内容は空想なのか。フィクションなのか。二次的に見聞きした類なのか。あるいは現実のものなのか。いずれにせよ凄まじい。
更に怖ろしいのは、その状況に何の動揺も無くうすら笑っていたという未亡人。
何か知っていたのは間違いない、
「彼女を巡りて」夢と現実の境が曖昧になってしまったような事例たち。
断片のようなエピソードながら、これだけ積み重ねられるとなかなかに重い。
興味深いものも多い。
実在する筈のない姉が姿を現した、という加奈江と同様の話も。この体験者はそこでどうしたのだろうか。その後姉はどうなったのか。
「眠った花」まるで夢に取り込まれるかのように亡くなってしまう人たち。
どちらの話もかなり印象的であり、相当に怖い。
ただ、サーシャは、御守り位で逝ってしまうとは大分やわな存在だったようだ。
「世界の外のどこへでも」彼女に何が起こったのだろう。「脳の花」が開くと何が見え、どうなるのか。
これを聞く限り、ろくなことにはなりそうも無いので、自分で体験してみたいとは微塵も思わないけれど。
保存されている筈のメールが全て消えてしまう、ということは、その存在そのものが消されてしまった、ということか。
ただ、著者の記憶からは消されていないので、中途半端、ではあるけれど。
彼女のキャラクターが、独善的で全く同情する気になれないものである、というのは郷内怪談らしいブラックなところ。
「異話」最終結末に向かうための強烈な事件。
ビジュアル的に最強にして最恐で最凶。
絶対に近付いては行けない場所、ぶっちぎりのナンバーワン間違い無しだ。
柴田家の男たちは、この後どうなったのだろうか。憑き物は落ちたのか、それともそれは一生ついて回るのか。
この呪いは、やはり彼ら目当てに誰かが拵えたものなのだろうか。だとすると誰が何のために。
それがとばっちりのように加奈江を殺させてしまう、というのはどういう理屈なのだろう。
不審なのは、最初の幹夫の話。
これは相当に冷静で無いと語れないような内容で、息子夫婦とのやり取りからは、とてもそういう状態では無いことが窺える。
ここでもちら、と良からぬ想像が頭をよぎる。
何だかばたばたしている、という印象ばかりが残り、ちょっと物足りない。
それでも、話に肉付けしていくために加えられている怪談だけでも充分に楽しませてもらえる、というのは見事。
流石、としか言いようが無い。
拝み屋怪談 来たるべき災禍(3)posted with ヨメレバ郷内 心瞳 KADOKAWA 2017年06月17日頃 楽天ブックスで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る