大作を書かせれば随一である西浦和氏。
その作品選集とのこと。
最早しつこい位だけれど、何もかもが新鮮だ。
「蔵の人たち」このあたりは新作。
百基以上の墓石が敷き詰められた上に建てられていた旧家。
白い人が出て来る位で、特に障りも無かったようなのが、むしろ不思議だ。
それが掘り起こされた光景を想像するだけでぞっとする。
よく70基の持ち主を見つけられたものだ。
「闇で叫ぶ声」これも今回が初御目見得。
怪談の定石として、場所を変え名前を変え、匿名性を担保して披露する。
その常識が別の怪異と怖ろしい程に結びついてしまう。
まさに歓談の業、とも言えるものを見せつけられたような話だ。
本文にも書かれているように、これはまさに運命。逃れようもないし予測できるものでも無い。流れるままに任せるより他あるまい。
「妙な土地」東京にもあちこちこうした「忌み地」が存在するのかと思うと怖ろしい。
この話の凄いのは、語り手が最期に「立ったまま」死んでしまうこと。
そんな死に方ってあるものなのか。
「おぼえてるもん!」語り出したのが流産した子の生まれ変わりだとして、祖母の死期を何故知っていたのかが不思議だ。
さらに、次の子供について予言しながら、それがある種外れてしまう、というのも。
「十四人目の名前」誰かの悪戯、という可能性もゼロでは無いけれど、だとしたら誰かが知っているか、少なくともそこで事件の話をしておかないと悪戯としても成立しない。
名前が書かれているだけで、何か怪しいモノが現れるのでも不思議な現象が起きるのでもない。
しかし、どういう風にその紙に名前が記されたのか、その理由は、など色々と想像していくとじわじわと怖くなってくる。
西浦和怪談らしい、滋味のある話と言えるかもしれない。
「黄色いゴムボール」まるで「リング」のような呪いのビデオ。
一番謎なのは、このビデオが何故どうやって語り手の弟の元に存在することになってしまったのか。しかも、その後死人を名乗る男が回収していったという。それは一体。
さらには、段ボールごといつの間にか語り手の許に現れている。
こうなるともう、逃れようがなさそう。語り手もやはり逝ってしまったのだろうか。
彼が弟の部屋でビデオを観た際には何も起きなかったようなのは何故なのだろう。
「手作り石鹸」てっきり後輩が仕組んだ呪いの罠、かと思ったらまるで違っていた。
少々心が荒んでしまっているようだ。反省。
ただ、その分これは無差別な呪いの発信、なわけで恐ろしさはむしろ増す。
後輩の方は捨てても結局命まで奪われてしまったのに、語り手は何とか無事に終わりそうなのは何故だろう。何か行動に決定的な違いがあったのだろうか。
「こっちこっち」まだ死んでいるわけでもない自分が、まるで霊のようになって案内してくれる、というのは珍しい。
大抵死んだ後にその死に場所へと導いてくれるものなので。
しかもその存在感、会話はまるで普通の人のよう。相当に強力な念が発せられたのだろうか。
「獄の墓」「獄の記憶」「獄の墓 後日談」いや、もう何とも好物過ぎて。
何としてもこの場所が知りたくて仕方ない。
ネットで調べても、板橋か大宮、というもの。後日談でそれらとは違う場所だ、と記されており、そうなるともう全く判らない。
あるいは、皆が真相に到達し過ぎないよう、あえて違う、と主張しているのかもしれないけれど。
ただ、真相が判ると命も奪われてしまうようなので、その方が幸せ、なのかもしれない。
西浦和氏が(今のところ)大丈夫そうなのは何故だろう。
違う時期に発表された続きネタがまとめられ、更に最新情報まで補足されている。セレクションならではの醍醐味と言える。
彼の作品としては、渋谷の旧家の警備話が一番強烈だった。
ほとんどの怪談を覚えていない中で、ぼんやりとながら残っているのが証拠だ。
しかし、あれは載せるとなるととんでもなく長い話になるので、ベスト盤でもなくなってしまうから諦めたのだろう。
ここの掲載作品は、やはり新ネタのように楽しめてしまったのが嬉しいような悲しいような‥‥。
他にも怪談としては長いながら面白い話は結構あった気がするので(当然内容はまるで記憶に無い)、今回も作者の嗜好と個人的な趣味との間には齟齬があったのだろうか。
まあ、ボリュームの問題もあるからなあ。
とにかく、怪異の怖さ、奇妙さというよりも話の精妙さドラマ性で惹き込まれ読ませてもらえる稀有な作家なので、この一冊も充分堪能させてもらえたし、今後も期待したい。
西浦和也選集 獄ノ墓posted with ヨメレバ西浦和也 竹書房 2021年03月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る