東北をテーマにした作品集。必ずしも全てそう、というわけでは無いけれど。
既に共著や単著で何回も接したことのある高田氏と初登場の高野氏のコラボ。
残念ながらあまり印象に残るものでは無かった。特に高野氏のものは怪異も強烈では無く書きぶりによって更に印象を弱くしてしまっている。
「人を轢く」陽とか動物を轢いたような感触があり、青ざめて車を止めてみても何も痕跡が無い、というのは王道とも言えるネタ。
しかし、ここでは違う。車は明らかに物理的に破壊されているのだ。しかも一台ならどこかに飛んでしまって、という可能性もゼロではなさそうだけれど、それが何台もとなるとそうも言えない。一体何なのか、何とも気になる。
震災関連の話でもあることがオチで判る。
「つづく」偶然かも、と言われればそうとも取れそうな話ではある。しかし、連日、というのが凄い。しかも一人は命まで。その理由にも曰くがありそうで怪談としては合格点。
「引っ張る夜 二篇」後半の話。亡くなるちょっと前、浮き上がる人の霊体?に掴まって一緒に飛び上がってしまう、というのは新しい。
しかも自分の知っている青森の街を見下ろしている、というのは夢ではないと思わせてくれる証になる。
離れられなかったら、そのまま昇天してしまったのだろうか。
「逆さごと」着ていた服、そして洗濯し干していた服のボタンが裏返しになってしまう。些細な出来事ではあるけれど、常識的にはあり得ない。間違えて出来るものでは無いしいつの間にかそうなってしまうものでも勿論無い。
何故こんな事が起きるのかも全く判らないし、何とも興味深い。
「分からずじまい」体験者が語るように歩く姿が映らなかったのかどうかは判らない。
いきなり飛び降り現場に現れた、という可能性もあるからだ。不自然であることには変わりない。
ただ、いた筈なのに消えてしまう存在、というのはわりと聞くのに対し、突然現れてちゃんとそこにあり続ける人、というのはおよそ知らない。貴重な事例だ。
「はじめての」これは面白い、というより異を唱えたい一作。
金縛りによる恐怖体験と快楽夢とは紙一重のものらしい。
自らの体験でも、昔は結構頻繁に金縛りに遭ったり怖い夢を見ることが多かったのだけれど、整体に通って背骨の歪みが取れたところ、それがほとんど無くなり、代わりにエロティックな夢を見ることがやたら多くなった。
金縛りの最中、触られているような感覚、というのも時折あるもの。
なので、これは怪異体験、というよりも夢の一つ、と考えた方が自然だろう。
夢、という理想化された世界なので、その体験が惟一番強烈に感じてしまうのも当然。
話の末尾など、文学的な表現を目指しているのかもしれないけれど、何だか情緒的な思わせぶりな文章が書かれているものが多く、むしろ興醒めしてしまう。
あまりに素っ気ないとしたらそれも良くはなさそうだけれど、怪談というものはむしろ怪に語らせるべきものだろう。
怪の本質やその裏に隠されているものを明るみにするような内容であればじっくりと描いて欲しいところながら、そうではない付加的な要素が多いとどうも気になってしまう。
東北巡霊 怪の細道posted with ヨメレバ高田 公太/高野 真 竹書房 2020年09月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る