丸山政也/奇譚百物語 鳥葬

 ついこの前に読んだ「エモ怖」でも何編か読ませてもらったこの著者。
 引き続いて単著を読むこととなった。

 あとがきで著者自身が記している通り、一人で百物語を書く、というのはなかなかしんどいこと。
 ここでも残念ながら明らかに数に質が見合っていない。特に後半、どんどんと話も短くなり、怪異も薄まっていってしまう。中にはどうも怪談とは呼べないレベルのものまで。
 これならもっと絞ってじっくりと書いてもらった方が良さそうな気もする。
 とは言え、この作者は文章も淡泊なため、元来小粒なネタが更にさらっと流れてしまって、ほとんど後に残らない。

 「シュークリーム」訪ねてきた友人の不慮の死と潰されたシュークリーム。何だか関連がありそうでもあるけれど、何故そうなるのかは判らない。
 怪異が物理的な現象で現れておりそれ以外を伴っていない、というのも珍しい。

 「落水荘」怪異としては特に怖かったり珍しかったりしているわけでは無い。
 ただ、自分としても一度は何とか観てみたいと思っているライトの名建築「落水荘」が舞台、ということで印象に残った、という次第。

 「打ち合わせ」本来なら東北にいる人物と何故か打ち合わせをしている。名前も顔も一致しているので勘違い、ということでもなさそうだ。
 しっかりと健在のようなので霊でもない。
 この意味不明さが堪らない。

 「土砂崩れ」既に亡くなっているのに帰宅し、最低限ながら会話も交わしている。縋りついた、というのだから触れることも出来たようだ。
 帰ってこないと思っていた人が帰ってきた喜びの爆発の反動、いた筈の人間がふと消えてしまった寂しさ、情感の残る話ではある。
 ただ気になるのは、土砂崩れの現場を訪れた大の大人が到着してもおしゃべりをするばかりで、しかもそれを放置して作業を始める、などということが本当にあるのだろうか。それにそんな危険な現場で危ない場所にバスを止めておく、というのもちょっと疑問ではある。

 「ショートカット」二日続けてロングの髪をショートにしてもらう女性。やはりこの世のものでは無いのだろうか。ただ、霊の髪の毛を切る、ということだったらむしろもっと貴重な話だ。どうやら同一人物のようだし。
 こういった理解不能な話は何だか不気味でかえって怖い。

 「念写する男」目の前にいる人間に関連する人の顔を念写できる。とんでもない力だ。
 ただ、残念ながらどの程度のレベルで写し出されていたかが判らない。文やりとしたものだったら、見た人間が勝手にそれを知っている相手と認識してしまう、ということは充分にありそうだ。
 更に、何故相手が会いたい、と思っている人間ではなくその逆を写し出したのかも判らない。単に性格が悪かっただけかもしれんけど。

 「ミミズ」ミミズのような存在でも霊、というのは存在するのかも、と思わせてくれる貴重な事例。

 「あれはなんだったか」先の打ち合わせとよく似た話ながら、こちらはイタリア。
 しかも、こちらの相手は既に死亡していたようで、そうなると怪談的にはむしろすっきりする。きっと霊になってまで商談したかったのだろう、と想像できるからだ。
 ここで最も興味深いのは、霊は国境はおろか地球の反対近くにまで飛ぶことが出来るのだ、ということ。意外にほとんど聞いたことが無い。

 「シニア留学」これも通常考える霊のあり方を大きく超える話。
 亡くなった筈の女性と一年余り留学先で勉学を共にしていた、というのだ。
 果たして第三者にどう捉えられていたのかは不明ながら、それ程長期間にわたっておかしいとも思われず存在し続けていた、というのは不思議だ。これまた初めて聞く状況。
 国際的な話なので難しいだろうけれど、出来れば関係者への取材など行って真相を究明して欲しいところだ。

 海外の怪談を沢山取り上げているのが一つの特徴。
 ただ、やはり恐怖のツボが違うのか怖いと感じるものは少なく、不思議に感じられる作品もあまりない。
 それもこの本の印象を弱くしている一因か。

奇譚百物語 鳥葬posted with ヨメレバ丸山 政也 竹書房 2020年10月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る