ついに登場してしまった。
面白いと思える作品が一つもない本が。
これまで、自分とどれだけ合わない本だったとしても、最低でも1、2作品は気になる、印象に残る作品は存在してくれた。
それが今回は皆無。
読み進めるのも読み終えるのもいつもより速かったようにも感じる。
一番の問題点はテーマを「社畜」にしてしまったこと。
会社、という場を縛りにする程度であれば、どんなタイプの話でも含めることが可能なので、それなりにバラエティのあるものにも出来たかもしれない。
しかし、社畜、となるとそこで描けるのは職場の厳しい環境であったり人間関係であったり、というものに限られてしまう。
なので、怪異の幅もかなり狭く、似たような話ばかりが続いてしまって余計に印象が薄くなる。
しかも、社畜観を出すためにはそうした職場や人間関係の描写に力を入れざるを得ず、怪異そのものよりもそちらの方に比重がかかってしまっているような作品も多かった印象がある。
そのため、怪異がむしろ脇役に収まってしまい余計に怖くも不思議にも感じられなくなってしまうのだ。
それぞれに描かれているストーリー自体には時折感じるものはあるけれど、それは怪談への感想では無いので、ここでは載せない。それにしても特にこれは凄い、と思える程特異なものは見当たらなかったし。
また、この中で2作だけ執筆されている黒碕薫氏の作品。
あとがき替わりに収録されている鼎談の雰囲気から察すると女性作家のようだ。
怪談の登場人物も比較的若い女性ばかり。
なのに、この登場人物の台詞が何とも珍妙だ。
まるで昭和の少女マンガのような時代がかった言い回しで、思わず笑ってしまう。
今時こんな話し方をする人なんていないだろう。あるいは一部(腐女子とか)では存在しているのだろうか。
いずれにせよメジャーとは思えないので、納得出来るものでは無い。
他の文章も小説家である、ということが悪く作用しているようで、実に装飾過多な居心地が悪くなるような表現が多用されてしまっていて、内容がほとんど頭に入ってこない。
以来が万が一単著を出したとしたら、余程の覚悟をもって読まねばならないだろう。
まあ、読まねば良いのでは、という気もするけれど、同じ作者でも豹変するケースはあり、一応は読んでみないと、と思ってしまうのだ。
むしろこの2編がこの中では一番印象に残ってしまった、とも言える。残念ながら。
まあ、これだけ怪談本を読んでくればこんなこともあるだろう。
そう自分を慰めるしか。
社畜怪談posted with ヨメレバ久田 樹生/黒碕 薫 竹書房 2020年08月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る