川奈まり子/実話奇譚 怨色

 どうも作風が違うと思ったら、あとがきによると「体験」を重視して変えてみたのだという。
 納得はいったものの、残念ながらそれが成功しているようには思えない。
 話の終わり方が唐突で、何だか尻切れとんぼなものが多い。おそらく実際の話はそんな風に終わってしまうものなのだろう。話慣れているものでも無いだろうし、思い出し思い出し話しているうちに一通り話してしまえば、オチなども無く語り終えてしまう、というのは判らないでは無い。
 しかし、読み物として読む上ではリアルに「感じられる」ことが重要だ。
 そのためには語られた内容を再構成し足りなければ欠けたところを補ったりすることもしながら、出来る限り一貫し印象に残るよう仕上げていく必要がある。
 いわば料理になっていない素材をそのまま出されてしまっているような印象だ。
 目新しいけれど、決してより良くはなっていないと思う。

 「証拠」車に手形が!という話は昔から沢山ある。しかし、それを写真に撮って残した、というものは見たことが無い。それが必ずしもこの手の話の信憑性に関わるものでは無い、のかもしれない‥‥、とも思わせてくれる内容。写らないのであれば残しようが無いから。

 「父の助け」夢のお告げ自体、というよりも、未来に起きる具体的な事件について知らせてくれた、というのが不思議だ。名前まで同じ、というのは偶然ではちょっとあり得ないものだ。

 「押し入れの蜜月」怖さよりも艶やかさの際立つ話。幼児であれば甘えてしまう、という反応も頷ける。臭いのでは無い体臭だけで無く、体温や脈動が感じられた、というのは不思議としか言いようがない。

 「欠けた青春」これは怪異では無い、かもしれない。幽体離脱中に見たものは全て夢・妄想であるかもしれず、怪我のショックで人格が変わってしまい、それが突然復帰した、とも考えられるからだ。確かに現実のものを見た、と証明できるものがあれば全く話は変わってくるけれど。
 とは言え、題名の通り人生でも一番大事な時期の記憶がまるっきり欠落してしまっている、というのは何とも悲しい。その点では疑うこと無くきつい話ではある。

 「出る店」前半のカラオケ店内での話はまあよくある幽霊譚であって特に珍しくも怖くも無い。
 しかし、社員がどうにも不可解な状況で自殺を遂げた、という話。とても気になる。一体どこからどうやって飛び降りたのか。何故自殺することになってしまったのか。それはそれまでの怪異とどう関連しているのか。急に店が潰れてしまったのは何でなのか。
 考え出すときりが無い。

 「宮柱の娘 ~見るなの岩と馬の首~」は民話のような噺だ。
 神託を下す前に厳しい潔斎を求められ、極度の飢餓状態にさせられる。脳内麻薬を放出させるための策としては有効に思える。
 「見るなの岩」で語り手が禁を犯した話があっての後、男の子が死んでしまったというのは、ここで書かれているようにその子が何かを見てしまった、ということでは無く、語り手の呪いを回避したためにそのとばっちりを受けてしまった、という可能性は無いのだろうか。

 「宮柱の娘 ~血蟲の呪い~」家に呪いがかけられ、家族の幻を見る、というのも不思議ではある。さらに家の前で事件が起きていても誰も全く気付かない、というのはどういう訳柄なのか謎だらけだ。

 元々女性怪談作家らしく怪異そのものよりそれに関わる人の心の方に関心が深い、というのは以前からあったものの、冒頭にも挙げた作風によって、その傾向がより強くなってしまったように感じた。
 興味深い事例も結構あっただけに何だか残念。

元投稿:2020年2月頃

実話奇譚 怨色posted with ヨメレバ川奈 まり子 竹書房 2019年12月27日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る