怪談最恐戦 2019

 今回も新作。

 元々が怪談トークイベントで話されたものを編集したものだそうだ。
 どれも読む、という段になると弱い。
 怪談、というのは「談」となっているように、本来は語り物。
 そして、語られる怪談は、何と言っても怖ろしい。稲川怪談は言うに及ばず、以前「新耳袋」のイベントに参加した際も、書籍の中では地味な怪談が、語られると実に生き生きと情景が浮かび想像力が恐怖感を弥増してくれる。
 稲川氏が得意とする擬音などまさに語りならでは。あれをそのまま文章に書いても間抜けなだけだ。
 なので、ここに載っている話も、現地では怖かったに違いないけれど、文章ではどうもなあ、と思わざるを得ない。
 分量的に足りなかったのだろう、おまけで付けられている「投稿部門」の方がずっと惹かれるものがあった。
 それでも、イベントのも含め気になるものの感想をば。

 「ある怪談の余波」怪談イベント、それも「稲川淳二の怪談ナイト」さらにはその伝説時の影響による怪異、とあっては、一言触れずにはおられない。怪の内容自体はいかにも流れ弾、という感じの慎ましいものなのだが。

 「家族石」ちょっと病に冒されている方、という可能性も捨てきれないものの、類例の無い不思議な怪には惹かれる。好みのタイプだ。
 友人が子供が増えている、という相談をしてきた理由も不明だ。追加で持ってきてしまった、ということなのだろうか。それでは、語っている内容と矛盾してしまうけれど。
 こんな石、もう見てみたくて堪らないけれど、見たらろくなことにはならないんだろうな、きっと。

 「よだれ」怪異そのものよりも、一見夢落ちのようでありながらそうでもなく、いわゆるデジャヴュとも違う、という展開が興味深い。眠っていたとしても時間が全く経っていないというのもおかしい。

 「夢」の中で毎日日常生活と同じような暮らしをすることになる、想像するだけで疲れてしまいそう。しかも美人でも好みでもないどころか、嫌悪感を抱きそうな相手と、いうのが尚更。
 しかも、それを意図的に仕組めるのかは不明ながらちゃんと意識している、とすると何かの能力なのだろうか。絶対そんな目には遭いたくない、そういう意味で恐怖そのものだ。

 「家族の絆」嫁姑問題から始まる怪談。展開も概ね良くあるパターンか、と思わせておいての意表を突く結末だった。よくある怪談、と思ってもまだまだやりようはあるものだ。
 復讐として考えれば、確かにこの方がきついかも。
 疑問になりそうなところ(語り手の問題や家族関係のことなど)もちゃんと説明があり、実話として納得性も高い。

 「一幡様」前にも書いた気はするけれど、日本の神社はむしろ祟り神がメインと言っても良いものなので、こうしたことも充分あり得るだろう。
 ただ、それなりに地元で祀られている神社の祭神が判らない、というのはちと解せない。本来のものかどうかはともかく、何かしらの神様と結びつけられてしまっているものだ。
 今回何とか難を逃れたのは、今回の件があくまで警告、だったからなのか、それとも誰かしら親戚もしくは友人などの助けによるものなのか。

 「オーバーラン」何人もが体験している貴重な事例。しかも、記憶を呼び覚ましてみると事故後と覚しき姿だけが浮かんでくる、というのがまた珍しい。
 実はずっとその姿で見えていたのに、皆の脳内で変換されてしまって生前の姿を見てしまっていたのだろうか。誰か第三者の証言があれば面白いのだが。

 「鬼」何だかとても心に残る噺。何回も読み返してしまった。
 どう考えても失踪するようなシチュエーションでは無し、父は一体どこへ消えてしまったのか。そして、一瞬登場したおじさんとは誰でその行動の意味するところは何なのか。
 何も判らない。でも、これ以上無い怪異であることも間違いない。
 シュール系の局地と言って良いだろう。
 是非亡くなってしまう前に母親に意見を聞いてもらいたいものだ。

 「二人目の彼女」これまたシュールネタ。最近注目している遭難事件とも微妙に重なっている。実際のところ遭難したかどうかも不明ながら。読んでいる限りでは女性の方に二度目という記憶は無さそうだ。事故~記憶喪失、という話でもなかろう。
 この何とも収まらない感じが堪らない。
 ただ、この語り手は仮にも付き合っている彼女が行方不明になったのに何故ぱったりと探すのを止め、忘れようとしてしまったのだろうか。ここがちょっと気になるところ。どうして急に虚しく思えたのか。何かしらおかしな力が働いていた、という可能性もあるのかも。

 中にはいくつか昔の子供雑誌の怪談のような稚拙なものや、いわゆるホラー落ち(怪異が伝染していく)のどうにも作り物っぽい(語り方のせいかもしれないけれど)ものなども混じってしまっているのは残念。

 こうして気になった噺好きなネタを確認してみると、イベントでの勝者では無いものが多い。やはり自分の好みは一般的なものとは大分ずれているのだろうか。

 ちなみに、ゲストの「ぁみ」氏 の怪談、前年覇者だということだし、稲川氏も認めている、という触れ込みなのだけれど、ここに載っているのは勿論、「異界のドア」などで語るのをちゃんと聴いていても、怖いと思ったことがないんだよなあ。
 何かお互いの感性がすれ違ってしまっているのかもしれない。

怪談最恐戦2019posted with ヨメレバ怪談最恐戦実行委員会 竹書房 2020年03月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る