2020年7月22日~9月13日開催
2020.8.31拝観
サントリー美術館がリニューアル。
丁度折悪く懇切の状況に遭遇し開館が延期されていたものがようやくスタートした。
今回の改修は耐震強化と照明のLED化が主だったそうなので、入ってみると、入口付近の雰囲気がすっきりし、ロッカーの位置が移動したこと以外、あまり違いは感じられなかった。
照明の変更についてはつい先程確認して知ったことなので、鑑賞時には認識しておらず、特段気付くことも無かった。
サントリーは今のところ日時指定を行っていない。年間会員でもあり、思い立った時にふらりと訪れることも可能(現実にはあまりしたことは無いけど)というのは有難い。
今回の訪問は会期も終わり近く。
それなりの人もいたけれど、館蔵品がほとんどという地味な展示でもあり気になるほどではなし。
テーマがどう、ということも無く、ほとんどが観たことのある作品でもあるので、特に思いついた点をいくつか述べるに留める。
丁度一年前の「遊びの流儀」展で初めて出逢った「清水・住吉図蒔絵螺鈿西洋双六盤」。
その鑑賞の際(参照)にも書いたように、この蒔絵、とにかく出来が良い。
それが今回は中を開いて見せてくれていた。蒔絵自体はほとんど見えなくなってしまっているけれど、それはまあ観たばかり。今度はゲーム面に施されたこれまた精緻な細工を拝むことが出来る、など二年越しの心憎い演出だ。
狩野養信は以前からとても好きな絵師だ。
端正で精緻な画風ながら伸びやかさもあり、顔料の質も高いものが多く実に美しい。
日本各地にある古今の名画を渉猟し模写を徹底的に行っている。それによって基礎を鍛え上げているので、地力が違うのだ。
そうした彼の屏風が二点。
「四季耕作図屏風」の方は既に観たことはあったものの、改めて観ても佳作だ。
もう一つの「波濤図屏風」は初見。
本来は四季耕作図の裏に貼ってあったものだそうだ。
金地に墨のみでやや即興的に描かれている、というのはこれまで観たことが無い作風で新鮮だった。
伊万里焼の「染付吹墨文大徳利」も二度目ながらやはり素敵だ。とは言えもう18年ぶりなので新規と言っても良い位だけれど。
今回の特徴として、展示している館蔵品とシンクロする内容の現代アーティスト作品をいくつか展示していることがある。
とにかく精緻に造られている野口哲哉もなかなか面白かったけれど、好きな作家山口晃の作品が何点かあったのは良かった。
全てとんでもなく細かく描き込まれているので、じっくり観ようとしたらいくら時間があっても足りない。
しかも最近ではプリント作品も出すようになったようだ。
彼の作風であれば印刷でもあまり遜色なく楽しめるし、おそらく価格もリーズナブル。
可能であれば欲しいと思った。
今回特に感銘を受けたのは、展示としてもどん詰まりにあった「縞蒔絵」「縞螺鈿蒔絵」の作品群。
この一帯だけ異彩を放っていた。
東南アジアの作風を真似て桃山~江戸初期に流行した模様だそうだけれど、元の東南アジアものは別として、日本の作品は観たことが無かった。
当時の蒔絵師が手掛けたため、オリジナルよりも遙かに緻密でシャープ、斬新な出来に仕上がっている。織部にも通ずる時代を超えたデザインセンスを感じさせてくれた。
幾層も様々な模様を積み上げた茶箱も観る者を圧倒する迫力すらある。
そうした模様の中に銅鐸や銅鏡以来連綿と受け継がれている鋸歯紋がひっそりと紛れ込んでいることにも驚いた。
一番気に入ったのは「縞蒔絵徳利」。
もう手に入れられるものなら何としても買ってしまいたい。
どれだけ観ても観飽きることは無いだろう。
ここにも時代に合わせ細かい装飾を施された鋸歯紋があるのも御愛嬌。
どちらかと言うと、更新手続きをオンラインで行った後ずっと預けっ放しになっていた会員証を受け取りに行くついで、程度の気持ちで訪問した展示だったけれど、流石サントリー、ただでは帰してくれなかった。
新規もあり再会ありを含め存外夢中に魅入ってしまう展示となっていた。