東京ステーションギャラリー/小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌

2021年10月9日~11月28日開催

2021.11.11拝観

 流石にほとんど知られていない作家なので、会期後半に入りながら、ぽつぽつとしか観客はいなかった。こちらとしては有難いけれど。

 元々全く知らず作品に接することも無かった画家であった。
 それが二年前、突然NHKの「日曜美術館」で彼の代表作にして問題作「國之楯」が特集され初めて知るところとなった。
 この時には画廊の加島美術にて展示が行われていたようだけれど、行くことは出来なかった。

 そこから二年が経ち、ようやくかの作を含む彼の作品を観られる機会が訪れた。

 実に巧い作家だ。
 十代にして既に出来上がっている。

 ただ、その分壮年になってからももう一つ深みが足りない。
 あまりに自在に軽々と描けてしまうために、これはこうでなくてはならない、というような揺らぎの無い力強さに欠けてしまっている嫌いがある。
 川端龍子に感じたものと似たような印象だ。

 緑が彼のキーカラー。
 とにかく、ほとんどの作品でそれなりに、もしくはかなり積極的に緑が使われている。
 特に、個人的にも最も好きなエメラルドグリーン~ターコイズブルー辺りの色味を多用してくれる。
 何とも素晴らしい。
 その色遣いを観ているだけでいつまでも飽きない。
 
 今回展示されていた作品の中では「長崎へ航く」が一番好き。
 オランダから長崎までの航海、となると、ある程度の危険も覚悟せねばならない。
 そう考えると、後姿で見送っている女性たちの心中は、決して喜びに満ちて、というものではないだろう。帰ってきたところならもう嬉しさしかないだろうけれど。
 一方で航海を無事に終えて帰ってくれば、結構な上がりを期待できることは確か。
 そんな思いを描いているのか、小早川が描く彼女らには悲壮感はな無い。
 むしろ無事の帰還を待ち望む前向きな感情が溢れているように感じられる。
 それを支える彩色もとても澄んでいて明るい。

 従軍画家だったそうなので、戦争・軍隊をテーマにした作品も多い。
 しかし、他の画家のように勇ましい戦闘のシーンや闘う軍人を描いた作品は、少なくともこの展覧会ではほとんど無い。
 遺体だけが描かれた「國之楯」は勿論のこと、「御旗」なども夜営をしているであろう軍隊の夜、立て掛けられた軍旗とそれを護衛する兵士の後ろ姿、という何とも寂しげな情景がテーマだ。

 戦後から晩年は体を壊してしまったようで、戦後30年近く生き存えながら大作も描けず、筆致もすっかり大人しくなってしまっている。
 残念だ。

 小早川秋聲、というまあ言ってみれば逸名の画家に焦点を当て、その若年期に始まり最晩年まで及び、小品から屏風まで網羅し、画題も様々な物が選ばれている。
 御披露目としては、およそ理想的なものとなっているのではないだろうか。
 とても満足感のある展覧会だった。