2020年7月23日~9月22日開催
2020.8.5拝観
一時期は毎月通っていた太田記念美術館、横浜そごうに入っている時代はこれまたよく訪問していた平木浮世絵財団、浮世絵の展覧会などで時折出会うものの松本にあって行く機会には恵まれなかった日本浮世絵美術館。意図は不明ながらこの3館の作品を集めた展覧会だという。
2館についてはかなりの作品を観ていたこともあり、行くかどうか迷っていた。
で、どうしようか悩みつつ展示作品リストを確認して驚いた。
鳥居清長の「大川端夕涼み」が展示されるのを発見したのだ。
浮世絵というのは一部の肉筆画を除き、版画なので同じ作品が複数存在している、のがむしろ普通だ。
なので、浮世絵版画はまず重要文化財に指定されることがない。
わずかに指定されているのは東京国立博物館の6件とこの平木の4件のみ。その指定も 昭和37~39年ともう60年近く前のことになる。
平木の4件中3件は既に観ていたけれど、この清長作品だけは一度もお目に掛かれなかった。
横浜では勿論、豊洲に移ってからも全てではないけれど気付いた際には展示をチェックし、過去の展覧会も名称から展示された形跡はないか確認はし続けた。
重文美術品にもいくつか悲願とも言うべき出会いを待ち望んでいるものがあるけれど、それらの中でも極めつきの一品であった。
それが、もうごく自然にさらりとリストの中に紛れ込んでいたのだ。
その瞬間、訪問は決定となった。一点の迷いもなく。
しかもこの作品だけやけに展示期間が短く、開幕の7月23日から8月10日までだという。
本来の前期は8月23日までだから、それよりもずっと短い。
まだ展示期間中に見つけられて本当に良かった。残り一週間の猶予しかなかった。
今は大半の美術館で日時指定が必要になっている。
実際のところ現状大人気となる展示も無く、ぎりぎりでも大丈夫な気もするけれど、塞がってしまったらもうどうしようもない。
この日は赤羽橋で髪をカットしてから上野までの移動、という予定だったので、時間設定が難しい。
遅れてしまうのは何だし、かといって余裕を持ち過ぎると上野公園内では時間の潰しようも無い。
それでも概ね予定通りに到着した。ちょっと時間前だったので一旦休憩し(この時間も何だか勿体ないけれど)、少し経過してから入口に向かうと、まだ行列が。入るのに手間がかかるためか進みが遅いのだ。
この中に入ってしまうと館内も一緒になるので、再度5分程座り直してから再度挑戦。
それでもまだ数人待ちだった。
むしろ集中と行列が出来易くなってしまっている。
これでは、密を避ける、という本来の目的からすると本末転倒ではないだろうか。
結局混み具合としてはいつもと同じか開催前半の時期と考えればむしろ混んでいる位か。適宜集まっているところを避け前後しながら観ればまあ順調。
展示のスタイルとしては三館毎に分けるのではなく、浮世絵の歴史に従って作家毎に並べていく、という形。
ただ、一部の作家を除き一人当たり一点から数点しか展示されていなかったりして、それぞれの特徴を掴むのも難しい。
さらに、展示は全て浮世絵版画のみ。
なので、多少の大小はあっても似たような小さな作品がずらっとどこまでも3フロア続いていく、ということになり、何とも単調になってしまっている。
やはり肉筆画を入れるなり展示の仕方で工夫するなり、もう少しメリハリがないと実にしんどい。
今回の総展示点数は456点。
ほぼ展示替えなので約半数としても200点を超える。細かい絵なので集中してみる分余計に根を詰めるところもあり、尚更だ。
これだけあるので鑑賞にかかる時間もいつも以上。
予期していつもより長く2時間近くを想定していたまさに計算通り掛かってしまった。観直しする時間は10分も余らない程。
浮世絵の歴史を概観する、というような展示になっている関係上、作品も名品が中心にならざるを得ない。2館には足繁く通っていたこともあって、見覚えのある、あるいはお馴染みの作品が大半。
積極的に渉猟している広重の作品も既知のものばかりであった。
勢い、本当に「大川端夕涼み」を観るために来た、という印象は強かった。
その作品は、重文になるだけあって、清長作品としても素晴らしい。
三人の女性がおり皆一様に右を向いている。花火でも揚がっているのだろうか。
何だか右にもう一枚あったかのような印象も受ける。
そうでないとしたら、画面外までも利用した空間の拡がりが絶妙だ。
三人の姿や衣装も実に決まっており、その摺も綺麗に仕上がっている。
朱や緑も鮮やかで保存状態も良い。
画面に惹き込まれてしまい彼女たちの意識まで想像したくなってしまう。
この作品、展示されるのは40年ぶりだとか。
それでは、これまでどれだけ探しても登場してこなかった筈。
また、同じく重文に指定されている石川豊信の「花下美人」。
大振りの画面(大々判)も相俟って、着物の柄なども実に細かく複雑に描かれているのを発見して見入ってしまった。
頬にほんのりと紅を入れているところなども心憎い。あまり浮世絵版画では見ない表現だし。
葛飾北斎の「冨嶽三十六景」は勿論これまで何度も観ているけれど、全く同じものを二枚並べて展示している、というのは初めて。
改版したりしているわけではないし「名所江戸百景」のように色を大きく変えたりぼかしがなくなっていたりするのでもないから大きな違いは無いものの、それぞれに結構描写の鮮やかさや色味が違っているのが判って面白い。
現地では見つけられなかったのだけれど、「神奈川沖浪裏」では日本浮世絵博物館所蔵の作品は船に色が付いていない、というものもあったようだ。やはりこちらが後摺なのだろうか。
広重や北斎を始めとする作家たちのシリーズものについても企画の方針上一~数点の展示に限られてしまっており、見応えは無い。
結局、色々盛り込もうとし過ぎたあまりどの面から見ても中途半端に終わってしまい、余計にどこまでも作品は続く、といった展示になってしまったのだろう。
個人的には平木の重文作品、特に「大川端夕涼み」を観られただけでも充分に満足、ではあったのだけれど。
ちなみに、図録は3,500円。
このむしろデフレの時代に、展覧会の入場料と図録だけは着実に値上げしていっている。
しかもこのどさくさに紛れてか、一気に加速した感しかない。
あまりに高過ぎやしないか。