加藤 一・神沼三平太・ねこや堂・鈴堂雲雀/追悼奇譚 禊萩

 世にも珍しい、一人の語り手による怪談を集めて編まれた一冊。
 おそらく史上初だろう。
 普通それだけのネタが集まるようなら、自ら書き手となってしまうものだからだ。

 しかし、それに気付いたのは読み出して大分経ってから。
 巻頭の加藤氏の文章が妙に曖昧で、あくまでも亡くなってしまった語り手を追悼している、というだけのものかと思ってしまったからだ。
 ところが、読んでいると体験者の像や登場する場所がやけに被っているように感じられて、おかしいと思い始めた。特に池袋、サンシャイン辺りが何回も登場してくるなど。
 そして、普段目にしない本の裏に書かれたあおりを読んでようやく理解するに到った。

 全てが自分のことでは無いようだけれど、とにかく凄い。
 ただ、残念ながら自分の好きな傾向の怪談とは言えず、あまり面白いと思える作品は存在しなかった。

 また、大半が既発表作品だったのだけれど、例によってほとんど記憶には無かった。あ、「開かずの扉」は流石に覚えていたけれど。

 「それは人には長過ぎる」題名の通り怪談としては異例の長期にわたる話でもあり、正直本当に怪談であるかどうか微妙でもある。
 起きているのは家族に相次ぐ病気、しかも親子であれば同じ病気にかかることもそう不思議では無いし、その再発も珍しいこととは言えない。
 しかし、確かにこれだけの不幸を次々と、淡々と積み重ねられていくとそれだけである種の凄みが出てくる。
 井戸についての話も何回も語られてきたことでもあり、決して疎かにして良いものでは無いのだろう。
 しかも、それが二段重ねになっている、という予想外の仕掛けまであって興味深い。
 何だかずしりと心に澱のようなものを作ってしまう作品だ。
このテイストはこの語り手の特徴をとても良く表しているようにも思う。

 「ひとりきり」この前に読んだ「腹切り仏」でも目立っていた「忌み地」に関わる作品。
 見学者の多くが入りたがらない程の負のパワーを発している場、というのはなかなか凄い。そういったところでやはり殺人が起こってしまう、というのも。
 入居者がすぐ逝ってしまう老人ホーム、となると、老人側にもその噂が広まってしまわないのだろうか。そういった意思を表明出来ない、もしくは認識出来ない人ばかりが集められてしまっているのか。

 「当たる話」不敬な人間に対して神罰が下る。ちょっとすっきりする。
 しかし、後半の神社で転ぶと良くない、というのは気になる。
 何しろ神社に行く機会は多い。あまり転んだ記憶は無いけれど、次第に足も衰えていくお年頃、いつどうなるかは判らない。
 以前、結構な雨の降る中、神社の背面を撮影しようとして裏山のちょっとした斜面で滑ってしまい、パンツを泥だらけにした、という記憶はある。その時はその後も特に何も無かったように思うけれど。正確には境内では無かったからかもしれない。

 神社や忌み地に纏わる話が多いという印象。
 そうしたこともあり、因縁や情が絡んだものも多く、瞬発力は無い代わりにじわじわ来るタイプ。
 何だか情感を感じさせるところもあり、品格すら感じさせる。この語り手の人柄であろうか。
 ただ、強烈な怖さや訳の判らない不条理さなどがあまり無いため、好みとは言えない。
 怪談としてはむしろ良く整理されていてすっきりしているけれど。

 また、エロ怪談が結構あるのも面白いところ。

 この方、やはり怪に近付き過ぎてしまったのだろうか。

追悼奇譚 禊萩posted with ヨメレバ加藤 一/神沼 三平太 竹書房 2020年10月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る