Horror Holic School 怪奇な図書室

 ネット上で怪談サイトや動画を展開する人たちと彼らの元に投稿された怪談を集めた作品集。

 編集がしっかりしているのか壊れた文章や矛盾した内容もなく、安心して読めるものにはなっている。
 しかし、きちんと書こう、という意識が強いせいか文章が硬い調子になってしまっており、学校の作文か感想文コンテストの文章を読まされ続けているような気分になってしまう。
 やはりプロはその辺りまで気を配られているのだ、と改めて気付かされる。

 怪異も強烈なものはなく、何となくどこかで聞いたような、と感じてしまうようなものが多かった。

 「ぶらさがり」天井からぶら下がった男に髪の毛から引き摺られる女性患者、という図は想像するにとんでもなく怖い。その後突然自ら飛び降りて死んでしまう、という展開も不条理感満載で驚かされる。死を誘導された、ということなのだろうか。

 「たまとり」ネットの怪談によく有りがちな「出来過ぎ感」がかなり漂ってはいるものの、興味深い話ではある。その場で死ぬのではなく、夜の内に死んでいる、というのもむしろ不気味。
 葬式の際何故しゃべってはいけないのかも気になる。

 「連れてきた霊が連れていった話」新耳袋に登場した「Sさん」の話を始めとして稲川淳二のライブ心霊写真コーナー鉄板ネタでも、変化する写真の話は時折聞かされる。
 でも、それが写真からこちらに飛び出してくる、というのは初。猫ちゃんまで道連れにしてしまって。一体何者なんだろう。

 「タイヤ」これは何とも不思議な噺。
 空中をぐるぐる回転する幽霊、というのもかなりシュールだ。そして凄い。
 これまで聞いたこともない行動だし、作り話でするにはあまりに突拍子も無さ過ぎる。むしろ信憑性があるような気もする。
 しかし、この作品の本領はむしろこの後。
 まずはその怪異そのものが友人の作り話だと。それが本当に現れたのは何故、と疑問ばかりが膨らむ。と思っていたら。
 こうして何度か話をし部屋を借りるという現実的なやり取りまでした相手が実は思っていた人間とは違っていたとは。ただ、おそらく名前を呼んだりもしていただろうし、彼と会っている時はその友人、だったのだろう。本当は誰なのか。否、正確にはどういった存在なのか。
 そして何より、大学時代に「本物の」友人が教員を目指していることも知っていたようだし、何故彼が不動産屋にいる、と思ってしまったのだろう。具体的な勤め先まで知っている、というのは明らかに記憶が作られてしまっている。実に奇妙だ。
 この事件の真相は是非確かめて欲しいものだ。きっと無理だろうけど。
 この話、個人的にはかなり好みのタイプ。

 「四隅」これは単純に語り手の精神の問題、である可能性が捨て切れない。
 そうでないとしたら、これは一体どういうことなのだろう。この前の話同様、記憶が改変されてしまっている、ということなのだろうか。
 何かそういった怪異が出没するようになってきているのか。
 怪異自体はささやかなものだけれど、古い日本家屋のほの暗さが前提となったもので情感は感じる。

 このように中には興味深い話もあり、そう悪くは無い筈なのに、読み終えての満足感は高くない。
 この中身を誰か手練れの作家さんに描いてもらったらもっとのめり込めた気がして残念だ。

Horror Holic School 怪奇な図書室posted with ヨメレバごまだんご/りっきぃ 竹書房 2020年08月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る