隠れた実力派 上北沢辺り

 近年は、新しく開業するお店はどこも大抵実におしゃれだ。
 それだけでなく、店舗を開く場所もこれまでのように繁華街や人の集まる商店街ばかりでは無く、思いもかけない場所でひっそりと営まれているケースも少なくない。
 しかし、そういった店が一軒に留まらず何軒か集まるようになってくると、そこに新しい街が出来始める。

 清澄白河などもそうだった。

 ギャラリーを開業した2011年頃は、一応商店街としての資料館通りはあり、ぽつぽつとこだわりの店も開かれたりはしていたものの、世間から注目されるには遠く及んでいなかった。
 それがみるみる変化していき、かのブルーボトルコーヒーの開業によって、一気に全国区へと変貌を遂げてしまった。
 今では有数のコーヒー激戦区だ。

 子供の頃8年程明大前に住んでいたこともあって、その周辺の京王線・井の頭線沿線には縁がある。
 そのため、これまで幡ヶ谷~笹塚には何回も訪れ、下高井戸や代田橋、永福町などにも再訪し、何とも懐かしくもあり新鮮でもあり、といった思いを得てきた。

 しかしながら、その先となると、明大前在住の頃も行った、という記憶が無い。
 おそらく実際無いだろう。

 そこで先日、思い切ってその先、桜上水に出掛けてみた。

 桜上水は急行まで止まる主要駅であり、各停の追い越し駅でもあるので、それなりに発達した商店街を期待していたのだけれど、残念ながらあまり無かった。
 皆下高井戸に行ってしまうのだろうか。

 甲州街道に出たところで方針転換し、そのまま道に沿って上北沢を目指すことにした。

 しばらく歩くと、何故か道は緩やかに右にカーブし始め、大きな三差路となる。
 一見どちらが街道なのかも判らない。
 道の北側を歩いてきたため、そのまま行けば右へと曲がっていくことになる。
 後から調べると、ここまで一般道の上に被さっていた中央高速が、ここからは何故か分離することになるためのようだ。
 この右は中央高速沿いの道、ということになる。

 しかし、そこで周囲を見回してみると、道の向こう側(南側)から左の方に細い道が延びており、そこの信号に「上北沢駅入口」とある。
 どうやらここを入って行けば駅の方に向かえるようだ。
 危ういところで無事狙う方へと進んでいけた。

 通りに入って間もなく、右側にえらくお洒落なお店を発見。
 グレーの壁はコンクリートだろうか。しかし、丁寧に仕上げてあるので美しい。
 扉や窓は直線を活かしたシンプルなもので、ナチュラルに木を使用している。
 全体にとてもセンスが良く、好みのデザイン。
 それが、奥さんが行きたいと思っていたマフィン専門店「Kepobagels」だった。

 中に入ると、右側に何種類かのマフィンが並び、左と奥の方には数卓のテーブルが並ぶ。
 カフェとしても利用できるのだ。
 迷ったけれど、まだ休憩のタイミングではないだろう、ということでマフィンを買っていくことにした。
 この日は小麦を食べてからまだ日も経っていなかったので、奥さんのみその日に食べ、冷凍していたものを後日いただいた。
 焼き直しながら外はパリッと中はもっちりしており、とてもおいしい。
 あんとチーズのベーグルは、あんの味が弱くチーズもクリームチーズなのか風味がほとんど無いので、ちょっとパンチがなかった。

 駅の方に向かいながら、横道があれば、そこにも入り込んでみる。
 繁華街というわけでもないので、流石にそう裏まで店が拡がってはいない。
 それでも、甲州街道と京王線との丁度中間辺りだろうか(地図を見ると大分京王線寄り)、横の方に店が拡がっていた。

 その中に、お洒落なカフェのように洗練された店構えにそそられる限定ものの幟が立つ店を発見。
 和菓子店「静花」だ。

 店には二組入るのは難しそう。
 店内のショーケースも洋菓子風。
 高級感溢れるテイストながら、肝心の菓子はそれ程高いものではない。まあ安いとも言えないけれど。
 既に午後も大分経ってしまっているので、既に売り切れの品も多いようだ。まだ商品名の表示だけ残っていて惹かれるものもあった。何だったかはもう記憶に無いものの。

 菓子自体も老舗菓子舗の練り切りを思わせるような洗練されたお姿をしている。
 期待感は高まるばかり。
 
 店を発見して購入し出る前後にもお客さんが訪れている。平日午後なのに、なかなかの人気店のようだ。

 その夜、早速日本茶と共にいただく。
 とても爽やかで切れがあり、何とも美味い。
 現代の和菓子、というものを体現しているようで、これまで食べた中でもトップクラスなのは間違いない。
 これは家の近くに欲しい一軒だ。
 実に残念。

 周りには素朴な店構えながらネット評価がやたら高い「上北沢ガーデニア洋菓子店」、予約のみのカフェ「DETAIL collection」、カウンターのみの四仙料理「担古麻」など、気になる店が沢山ある。
 この日には行き着いておらずネットで発見しただけながら、そう遠くないところに「佐藤美容室」というカフェとバーと美容室が一体となった、そしてクオリティが高い(らしい)店もあるらしい。

 駅の反対側に廻ると、こちらはあまり商店街らしき発達はしていない。
 それでも、駅前にはフランス料理店、ケーキ屋など数軒のお店があり、何だかそそられる。
 また、その周囲にある家々が皆やたら立派なお屋敷なのにも驚く。
 何だか荻窪辺りと雰囲気が似ている。

 駅前にはサミットストアやココカラファインもあって、買い物にも便利そう。

 新宿からも近くて便利だし、暮らすのになかなか悪くない街なのではないか。
 今のところ店舗数は多くないので、住むとなるとじきに飽きてしまう、という危険性はあるけれど。
 とは言え、これからさらに発展していく可能性もあるだろう。

 その後桜上水で休憩した後、下高井戸との中間辺り、住宅街のど真ん中にぽつんとある銭湯、月見湯温泉に寄ってから帰る。
 この銭湯、小さめのサイズで幾つにも区切られてしまっているのがちょっと使い辛いところながら、一部が天然温泉でもあり最高にリラックスは出来る。
 この日は祝日ということもありなかなか混み合ってはいたけれど、御谷湯のように長々と湯船に居座る客は全くおらず、ほとんど困らない。
 この日は何となくサウナは止めてしまった。見ると結構広そうで、もし次の機会があるなら是非試してみたい。