伊計 翼/怪談社 終の章


 
 
 相変わらず、何だかちょっと弱い。
 昔に比べれば、もう文章の稚拙さが引っかかって語りに入るのを邪魔される、ということも無くなり、また本編中では悪乗りをすることもほとんど無く、安心して読めるようにはなった。
 それでも、ネタがどうも淡泊なのは否めない。

 「露天風呂」のような宿に泊まってしまったら最悪だ。
 ただ、なんぼ何でも、墓石を風呂に使ったりするのか、しかも利用者から見えるような形のまま残しているのか、という点で大いに疑問は生じる。少なくとも 隠す位するのでは無いか。
 宿屋の全てが酷い、というのは従業員がどんどんと辞めてしまって質が低下しているからだろうか。廃業する直前の貴重な体験かもしれない。本当の話なら。

 「手」のように何かが入ってきた、という話はたまに聞くけれど、それが今でも動いている、というのは記憶に無い。
 動く、というアクションは通常の消化活動とは大分違うものなので、勘違いする、ということは無かろう。

 「あったかい」は話自体も「あったかい」もの。経験者が一人では無いところが貴重だ。

 「先頭」の車がそれぞれの前に登場してくる、というのは珍しい。
 ただ、そのために結局心霊スポットに入っていないし、「それ」は何をしたかったのだろうか。

 「おい」小さな女の子から鬼のような形相で睨まれる、ということ自体がある種怖い。
 しかも嫌な捨て台詞付きで。
 ネタ的にはあまり好きでは無い前世ものかもしれないけれど、その情景を思い浮かべると滑稽なようで不気味だ。

 「スズキアイコ」ただの偶然、と言えばそうなのかもしれない。
 とは言え、これも自分が体験したら怖いことこの上ないだろう。
 最終的に関係が無いと言えば無いわけだし。
 一体何を予告したかったのだろうか。
 ただ、これも疑問は残る。
 事故現場の看板に、被害者の氏名を載せることなどあるのだろうか。それはプライバシーに関わる上、全く不要な情報では。その人が身元不明、という場合位か。
 それだって、事故の目撃者捜しの看板に載せることでは無い気がする。

 「三人目」好きな世界の歪みもの。と言うか、それにしても奇妙な話ではある。
 タイムスリップものと捉えた方が良いのだろうか。
 ただ、お互いの話では状況が微妙に違っているし、タクシーに乗ってからもおかしいようだ。気のせいかもしれないけど。
 合理的な説明がつきそうに無い、ということではまさに怪談、なのだろう。

 「触れました」こちらも心霊現象とは全く違うタイプの話。
 しかも、これまで聴いたことが無いもの。
 これがいつでも出来る力なら、脳外科医など最適だろうに。
 その感触を想像すると何とも気持ちが悪いし、やられた方の対応も偶然と言うより因果関係が感じられそう。
 何が原因なのか、興味深いところではある。

 「おっぱい最高」本当にその通り。

 じゃなくて。
 目の前に女性が立っているからといっていきなり抱きしめてしまうのはとても危険な行為だと思う。裸、というわけでも無いのに。
 普通なら、何らかの理由で入ってきた生身の女性である確率の方が遙かに高く、痴漢行為もしくはセクハラで訴えられかねない。
 自戒せねば。

 「チャレンジ」は狂気系としても矛盾を感じる。
 相談されている内容からするに、不安神経症のようなタイプのものだと思われるので、それが突然そんな常軌を逸した行動をとるとは思い難い。
 しかも一番納得いかないのは、女性が室内でちょっと走った程度で、窓を突き破って外に飛び出せるか、ということ。
 ひびを入れること位がせいぜい、という気がするし、例えガラスを割ることが出来たとしても、その反動で体自体は手前に倒れてしまうのではないだろうか。
 ガラスを破壊しそれと共に外へ飛び出す、となると相当な力で激突する必要があると思う。
 あり得ない、とは言わないものの疑念は強い。

 「コミカルゴースト」~「コミカルバイバイ」は珍しい連作。
 まあ、一つの話に纏めてしまっても問題ない気はするものの、どう編集するかなど作者の自由だ。それで読み辛くなっているわけでは無いし。
 まるでアニメかラノベの世界のように普通にコミュニケーションの取れる少女の霊。
 ある種新鮮だ。怪談本でこんなキャラはほとんど登場してきたことが無いのでは。
 この話は、著者にとっても一番書き易いノリだったのではないだろうか。
 実に活き活きと描かれている。
 わざわざ遠方の赤の他人に現れてくる、という不思議さはあるものの、これまでもそうした理不尽な事例は数多くあるので、何か所以はあるのだろう。
 ここまで巻き起こした理由が犬のお墓の整備だった、というオチもさることながら、登場人物二人が別に恋に落ちるでもない、というところが実にリアルで良い。
 亡き妻の生まれ変わりを匂わせるエピソードといい、何だか出来過ぎ、という印象は強いけれど、空々しいとまではいかず、楽しめたから良しとしよう。

 「あとがき」で書かれているように、確かに怪談は「怖く」なくてはならない、というものではない。
 しかし、それは単純に恐くも無ければ他の感情も湧き起こさない、要は詰まらないものでも良い、ということには勿論ならない。
 「怪談」というジャンルを使って他の感情を呼び覚まそうとするなら、それはより巧妙にそしてしっかりと描き上げていくことが必要になるだろう。
 残念ながら、今のところ、彼の怪談からそれを感じることはほとんど無い。

 今回は話によって、仮名がアルファベットのみと、アルファベット+漢字とに分かれている。
 どういう基準なのだろう。是非アルファベットのみに統一して欲しいところだけれど。

 何故かは不明ながら、今回が最終章だという。
 しかし、その最後にいつも付いている謎の余計としか思えないエピソードの幕切れが、明らかに続編?を意識したとしか思えないような締め方。
 期待していないものをこのように引き摺られる、というのは何とも嫌な気分だけが残る。
 
 

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