平谷美樹・岡本美月/怪談実話 黄泉づくし


 「怖くない」怪談作家の雄、平谷美樹氏久々の新作。
 今回も特段に怖い話であるとか、呪われるような話、というものはあまりない。
 ただ、その淡々とした語りを読んでいくと、彼ら独特の読み口、というか味のようなものが感じられ、妙な表現だけれど幾分心地良い。
 その世界にのんびりと身を委ねる快感、とでも言えば良いのだろうか。
 やはり人気シリーズを展開してきただけのことはある芸の巧さなのかもしれない。

 語り手の恐怖や戸惑いが良く伝わってくることも、話の面白さを高めてくれる要因だと思う。

 「午後十一時の金縛り」、ハードルが高い金縛りものながら、寝ているならともかく起きていても必ず、しかも家にいる時だけ全く同じ時間に金縛りに遭う、というのは興味深い。
 しかも、それを引き起こしているのが人間ではないのかも、というのもまた不思議な話だ。

 「おみくじ」このように大きな災害や事故の際にも、何かの運でこのように九死に一生を得るケースがあるようだ。勿論その逆もまた有り得るわけだけれど。
 怪談かと言われるとかなりアウトっぽい話ではあるものの、これだけのエピソードはそう得られるものでもないし、記録に留めておく価値は充分にあるだろう。何よりタイムリーだし。

 「左目が視るもの」も怪異よりその裏にある真実、人物の思いが迫ってくる作品。
 昔いた会社のだいぶ上司に当たる人間が同じような事件を起こしていたらしく(入社時点で既に過去だった)、しかもその後も二人(これもどちらも社員)がそれ以後も付き合い続けている、ということに衝撃を受け、彼らの精神が全く理解出来なかった、というのを思いだした。こちらの語り手の対応の方が極めて自然だ。

 「テントを叩くもの」はあまりの定番ネタなのに、読んでいて面白かった。
 おそらく先にも書いた、語りの妙が存分に発揮されているからだろう。
 以前、ライブで木原浩勝氏が自著「新耳袋」のエピソードを執筆前に語るのを聴く機会があり、怪談はやはり語りの方が圧倒的に怖いな、と実感できた。
 しかし、この話ではその語りの怖さをある程度紙上で再現出来ているようだ。

 最近はあまり怪談が集まらないとこぼされており、執筆のペースは以前より落ちてしまうのだろうか。何とも残念だ。むしろ書けば書く程話の方から集まってくる、という他の書き手の方の声も読んだことがあるし、思い切ってみれば何とかなるのでは。

 また、以前のように無理に百話にするのではなく、一つ一つの話をしっかりと描き出すようにしたのも良かったように思う。

神沼三平太/恐怖箱 坑怪


 このところ重量級の作品を読んできたので、大分軽く感じてしまう。
 しかし、一つ一つの話を丁寧に書いているので、読み応えはある。とは言え、あまり文章が巧いとは言えないので、かえってまどろっこしいと感じてしまうところもあるのは残念。

 いくつかの話で、どうもしっくりこないことがある。
 まずは「きみだけに愛を」。これは途中で宏の姿がさまざまな人に目撃された、という話があり、確かに怪談なのかもしれない。
 しかし、そのその中心となる幸子さんの告白は、ほとんどが本人の弁だと思われる。その終わりの方の奇妙な展開からすると、どうも本人の精神に大きな問題を抱えてしまっているように思えてならない。そう考えるとこの話は大分違って見えてしまう。

 「笑い面」も鈴木と福島が友人でありながら一人の女と入れ替わりに付き合える、ということにまず驚かされる。そういう人もいるのだろうか。そして最後の彼女のセリフ、「自分も解放される」というのはどういうことなのだろう。この意味もちょっと解せない。

 「それは人には長すぎる」の一家には確かに不幸が続いてはいる。それでも、どの家でも悲しいことを抽出すればそれなりにあるだろうし、曲がりなりにも暮らしは続いていたわけで、それを祟りと断ずるのはどうも強引な印象が強い。あくまでも霊能者がそう言った、ということが、一連の不幸を無理矢理全て結び付けてしまったように思えてならない。

 「蜜柑屋敷」も、あの時点で何故急に「もうお婆さんは駄目」という結論に至ってしまったのか理解出来ない。これは一種の殺人と言える大事であり、ただ重要な働き手を一人解雇した位で実の息子が母の命を奪う決断をこうも易々としてしまうものなのだろうか。 祖母を殺しておいて最後に「お兄ちゃんのことをもっと大事にしてあげれば良かった」などとのうのうと言われても空々しいとしか感じられない。

 「改築」については、良い感じに厭な話で印象に残る。まさかこれが東北地方太平洋沖地震の引き金か、と驚いたら、三十年以上前、とありそうではなさそうだ。
 ただ、作業に入っただけの工務店が社長を含めて命を失っていそうなのに、神部さんは旅館を失っただけ、というのはちょっと釣り合いが取れていないようにも思える。
 あちらは部屋の天井に穴を空けてしまった、という点がいけなかったのだろうか。
 まあ、心霊現象は時としてえらく理不尽なこともあるので、そこを問うてみてもあまり意味はないのかもしれない。

 全体に登場人物、特に語り手の行動や意識にどうも納得出来ないことが多く、今一つすっと入ってこない感じではあった。あまり類例の無い話なども多かったのだけれど。