カテゴリー別アーカイブ: 怪談本

葛西俊和/鬼哭怪談


 

 

 今回は先月の新刊。

 三人競作による「怨呪」で初めて接した作者、葛西俊和。
 その時には欲求不満が先行するものであったけれど、この本ではかなり楽しめた。
 否、むしろそうした書き方では勿体付けすぎで、最近ではかなり高レベルの内容であったと感じている。
 しかも一風変わった毛色の作品が多かった。傾向が似ている、というわけではないものの、小田イ輔を思い起こさせるところがあった。

 「お絵かき」では多数の子供が体験する、という貴重な事例。
 しかし、明らかに御祓いが悪い効果を生み出してしまっているようだ。
 ただ、まだ御祓いを繰り返しているなど、園側はどうもそれに気付いていない様子。
 この後、どう展開していくのか。続編が気になる。

 「おでん屋」こそ、まさに奇妙極まりない話。大好物だ。
 何故廃屋のおでん屋がまともな店に見えてしまっていたのか。そしてそこで何を食べていたのか。
 そして何より、残った友人は何故熊に食われてしまったのか。
 熊とこの現象との間に何か関係があるのだろうか。たまたま偶然重なってしまっただけなのか。
 決して解けない謎であることは重々承知しつつも、数々の疑問が浮かんできて考えさせられてしまう。知りたい。

 「ゲーセン怪異」は凄い、という話ではないものの、写っている女性、というのが一体誰なのか、何故プリクラに映り込むのか、男は何故繰り返しプリクラを撮影していくのか、そして、体験者が最後に経験した現象は一体何だったのか、次々と疑問が浮かんでくる不思議な話。

 「特製醤油」は今や懐かしいとも言える平山氏の東京伝説を彷彿とさせる内容。社長ともなると誰かから怨まれていた(嫉まれていた)のだろうか。ただ、明らかな怪異も起きているところはきちんと怪談となっている。

 「定期的」の内容は語り手の幻覚である可能性を否定しきれず、怪談としてはぎりぎり感満載なのだけれど、もし本当だとするとそのシュールな味もまた格別。一体誰が何の目的で行っていることなのか(実行主がこの世の者で無い可能性も高いけれど)、これまた気になって仕方が無い。今回、こうした明かせない謎が多くてやきもきさせられてしまう。それもまた面白さ、ではあるのだけれど。

 「前世の味」を求める、というちょっと良い話、なのかと思ったら、結末は全く違っていた。この話もヨシオは一体何を思い出しそして消えてしまったのか、肝心なところは何一つ判らない。ただ彼はわざわざ語り手に同行を求めながら何も説明してはくれなかった。それは何故なのだろう。まあ、その時の反応から見て、彼にとっても想定外のことだったのかもしれない。

 「形見分け」のような話は結構あるけれど、ここまで事件性の高いトラブルを回避してくれる、という事例はそう無いので貴重。

 「大福」語り手が大福を買った屋台というのがどういう存在なのか、とても気になる。それによって祖父の呆けが治りしっかりとした最期を遂げられた、というのは良い話だし、語り手の味覚に変化が生まれた、というのも不思議な話。その部分は夢の中、ということなので、若干疑念は残るけれど。

 「治験バイト」のこの病院、治験者に骨粉など飲ませて、何を調べようとしていたのだろうか。リング的な映像も含め、謎が残る。

 「胡蝶蘭」もまた平山氏的な話。
本当にそんなことが可能なのか、どうすればそうなるのか、最後の話までやはり解明されない点が多い。その特殊な環境(タコツボ的なところ)も合わせ、何だか妙な味わいのある作品だった。
 ヤクザというのはやはり怖いものだ、とも思った。
 
 途中でも書いたように、不条理な怪異の原因、背景、意図などはあまり追究されることが無く明かされない。
 それがこの本の一番もどかしいところではある。
 ただ、怪談では明かすことが出来なかったり元々誰も全く解明などできないことも多い。 いたしかたないことなのだろう。
 むしろ、それだけ不思議なネタが多かった、ということの証でもある。
 平山都市伝説風の怪談でも怪異は起きていて、怪談の範疇には収まっている。

 今後期待できる新人の登場だ。

 

 

つくね乱蔵/恐怖箱 厭魂


 

 気づいたら一年も更新していなかったとは。

 その間も竹書房文庫は毎月3冊ずつ新刊怪談を発行し続けているので、それ以外も含めると40冊程感想も書かないままになっている、ということか。
 全て、というのは無理だろうけれど、少しでも拾えるものは拾っていこう。

 丁度復活の幕開けとしては途切れたところにそのまま繋がるこの一冊「つくね乱蔵/恐怖箱 厭魂」。
 新刊を読み切ってしまったもの、どうにも更なる怪談が読みたくて堪らず、四年近く前の「鈴堂雲雀/恐怖箱 吼錆」に引き続いてたまたま手にしたのがこれだった。
 タイミングだけでなく凄い本に行き当たってしまった。

 前作同様、ここで語られている話はどれも読み応え充分。内容的にも興味深いものばかり。
 一作当たりの文章量も全体的に多く、じっくりと描き込まれている。
 細かく挙げていくなら全作品について語りたくもなってしまうところながら、それでは冗長になるばかりなので、涙を呑んで絞ってみた。

 冒頭の「閲覧注意」からもう強烈である。
 目にしただけで必ず失明してしまうというのは猛烈な神意だ。神ですらないのかもしれないけれど、少なくとも祟り神系であることは間違いなかろう。録画してもパワーが衰えないというのは「リング」を思い出させる。

 続く「帰りません」も同じような山の神のお話。
 元々日本の神々、というのはきちんとした系譜などあるわけでもなく、自然信仰が発展しながら神道の流れに無理やり組み込まれたものが多いと思われる。
 なので、有名な神社などよりもむしろこうした村だけでひっそりと祀られているような神、「山の神」などはいろいろな方々がいらっしゃるのだろう。
 福岡市にも、住宅街のど真ん中にあった小山にまさに「山の神」という神社があった。
 神社、といっても鳥居はあるもののその先には祠一つなく、綺麗な石が一つ鎮座してるだけであった。
 ある日気づいたら山ごと消滅してマンションになってしまっていて驚いた。
 そんなところを家にしてしまって、本当に大丈夫なのだろうか。
 余談はともかく。
 神ネタとしては予想もつかない意外なオチに驚かされる。と言ってもうすうすそんなところかな、という気はしていたけれど。ただ、そうなってしまった理由には心底驚いた。日本の神もギリシャ神並に世俗的なところがあったようだ。

 「不純な動機」はまるで落語の野ざらし。
 ただ、この主人公の心理がなかなかなものだ。とは言え、まだ思春期となると何だか判る気もする。
 男というのはこれほど馬鹿な(エロい)生き物なのだ、ということだろう。

 「そばにいるよ」のようなペットネタ、もう読み飽きているよ、と思わせておいての見事なオチ。生い立ちから始まって、見事にど真ん中と言えるような感動エピソードの連続だっただけにその落差は大きい。

 「遠い記憶」ではいわゆるパワースポットに纏わる話。個人的にはパワースポットなどという呼び方も捉え方も何とも好きになれないのだけれど、この話はそうしたものの怪しさとある種の正しさを証明してくれるようなもの。
 願いが実現されるのに15年かかる、というのも初めて聞く。どこでもそうなのかは不明ながら、参考にはなる。

 「予約済」は平山怪談的な実におぞましい話。しかしその実態が何なのか全く判らないのは、気味の悪さを増幅してはいるのだけれど、何とも残念でもどかしいところであるのも確か。
 鄙びた宿、寂れた無人の村、忌まわしいものが溢れた家、と道具立ては見事に揃っている。
 しかも「あかんぼう」というのは唐突でますますもって関連性が想像できない。

 「泥童」怪しい遺留品が案山子代わりになる、というのは実に斬新だった。
 倉庫奥深くにしまわれたらそのまま出て来なくなる、という霊の慎ましさにもちょっと好感が持てた。

 「井戸神様」で神、と呼ばれているものはどうやらほぼ貞子。
 不気味な話ではあるし、目新しい。
 でも、どちらかと言うと、初めて来た家でいきなりひどいいたずらを始めてしまうなど子供のしつけはなっていない様子だし、こんなことがあっても一年以上離婚せず、その後急にかなりひどい復讐を行おうとするなど、この語り手、流石二度離婚しているだけあって、相当に酷い人間なのだろうな、とそちらの方が気になってしまったりもする。

 「潮騒の母」のように、この程度の現象しか起こせない大人しい母であれば、確かに復讐したり祟ったり、ということなど及びもつかなそうだ。
 この話も井戸神様同様どちらかというと奥さんの方が恐ろしい。

 「赤い屋根の家」は幻想小説のような展開。
 この家の住人は既にこの世のものではない、ということなのだろうか。
 ただ、だとすると遺体はきちんと葬られているのか、この家の権利などどうなっているのかなど下世話なことがいろいろと気になってしまう。
 興味深い話ではあるけれど。

 「自己責任」のような呪われた家、というのは最早珍しくもない、と言っても良い位に報告例はある。
 しかし、この物件のように事情を知っている人間がわざわざ引っ越してきて、しかも見事に不幸に見舞われてしまう、というとんでもないという話は聞いたことが無い。
 しかし聞いたことが無いから他にはない、とは限らない。
 世間で言われる「心霊スポット」にはこんなところも紛れ込んでいるのかもしれない。
 やはり興味本位に足を踏み入れてはいけないのかもしれない。
 でも何だか惹かれてしまうのも間違いないのだけれど。

 「あの子の部屋」も不動産話。
 転居して間もなく亡くなってしまう、というのは相当に強烈な輩だ。
 実際に登場している心霊現象は写真一枚だけなのでたいしたことはないのだけれど、この裏に秘められていそうな事実はかなり深刻なものがありそう。
 一端すら掴めないのがここでも残念至極。

 「見ぃつけた」で語られている「古墳」というのがいわゆる古墳時代のものであるなら、ちょっとこの話にはおかしなところがある。
 まず、通常の古墳であれば葬られているのは一人(語句までに夫婦)の筈。古墳群、というのならちょっと違うけれど、そう書かれてはいない。
 まあ、厳密な古墳、というわけではなくて、古い墓、ということなのかもしれない。
 ただ、いずれにせよ、子供たちが遊び場に出来るような土地、であれば歴史的に見れば相当な数の人が足を踏み入れた、と考えるのが自然。
 本物の古墳ですら、盗掘されているものが大半だし一時はいろいろ他に使われてしまっていたものも多い。
 今更そこで遊んでいただけで憑いてしまう、というのはどうにも納得できない。
 しかも最後のエピソードなど、ホラー小説王道のような展開。何だか胡散臭い。

 現象だけを取り上げるとさほど強烈ではなかったりありがちなネタだったりというものが結構ある。
でも、そこに収まらない不気味さやおぞましさが加味されることで独自の味わいを生み出し、存分に楽しませてくれる。

 満足のいく一品であった。

小田イ輔/実話コレクション 呪怪談


 
 
 相変わらず比較的独特な味のある話は多い。
 しかし、今回もインターバル半年。流石に大分薄まってしまった感がある。
 詰まらない話というわけでは無いのだけれど。

 「インチキと霊能力」はコミカルながら実のところは語り手にとっては深刻な話ではあり、しかもそれがうまい解決に至る、という意外と少ないタイプの話。
 祈祷はインチキだったにせよ、この霊能者にはそれなりの力はあったようだし、きちんと役に立っているところも面白い。まるで貝木泥舟のような存在か。

 「お祭りの日」本来ある筈の無い記憶が生まれてしまうというのも興味深い。
 何だか切ない感じも悪くはない。
 ただ、まだ大学生という語り手が、高校時代親しかった同級生の顔すらほとんど思い出せない、というのは酷過ぎでは無いか。若年性痴呆症か何かを疑った方が良いかも。

 「その光景」のように、地獄の光景が見えてしまう、というのは嫌だ。
 しかし、地獄に近い人はその光景を見てしまう、などと言うことがあるものなのだろうか。第一、語り手は何故地獄行きが決まってしまっているのだろう。何か由縁はあるのだろうか。一切語られていないので謎は深い。
 描かれている内容も、いわゆる地獄絵図とはかなり異質であり不思議だ。

 「笛の音」は著者らしい、何とも奇妙な話。
 お祖母さんは一体何を怒っていたのか、家族の態度が急変したのは何故なのか、そして何より笛の音は何であるのか。最後に友人の性格が変わり敵意を持つようになってしまった、というのもその因果関係がまるで不明だ。

 「部分」のみが見えてしまう、というのも珍しい。しかもしょっちゅう見るとは。
 語り手自身がそれを疑っているというのも興味深いところ。

 こうして感想を書いてみても、やはり印象は薄い。しかも何だか事の真相には全く至っていないような話も多く、取材不足なのか、どうにも辿り着けそうに無いのでこれまで封印していたような話が多いのかもしれない。
 いずれにせよ、物足りなさは強い。

 エネルギーが変わらないのならともかく、一冊毎に明らかに劣化している現状、もう少し発行ペースを落とすべきだろう。
 精々年に一冊、というのがやはり良いペースなのでは無いか。