東京国立近代美術館 福沢一郎展


2019年3月12日~5月26日 開催

2019.4.17拝観

福沢一郎。

名前に聞き覚えはあるものの、シュールっぽい作風の作家、というぼんやりしたイメージ以上の知識は無かった。
履歴を確認すると10点程の作品を観たことはあるようだ。しかし、一度にはほとんど1点のみに接するに留まっており、まとまって拝見することが出来たのは今回が初めて。
とても作風の把握など出来るものでは無かった。

展示としては個人の回顧展に相応しく若い頃から晩年までの作品が一堂に会していた。
しかもそのほとんどがいわゆる「本画」。前半はほとんどが油彩、後次第にアクリルによるものが多くなってくる。
つい先日観た「ラファエル前派」展とはえらい違いだ。
やはりこうでなくては。見応え充分であった。

おそらく世間的にもほとんど認知されているとは言い難い作家、しかも会期前半、ということで流石にがらがらの状況だった。
どの作品も好きなだけ観放題だ。

あまり精緻な画風では無く本来好きなタイプでは無い筈なのに妙に惹かれるところがある、と思ったら、色遣いがかなりツボに嵌まっていたのだ。
南米に行って以来の原色も多用した派手な作品は勿論、それ以前のものもクリアな色味が多い。
特に空や海にいわゆる「青」では無くターコイズブルーもしくはエメラルドグリーンと覚しき個人的には最も好きな色が大抵の場合使われている、というのが一番かもしれない。

観ていてあまり上手い作家では無いなあ、という印象があったものの、デッサンをみるとやはりきっちりと対象を捉えている。
とするとあえて素朴な印象になるよう描き出している、ということになる。

また、元々彫刻出身なので、量感の表現はしっかりしている。
背景などを描き込むタイプでは無く、空や地面が簡単に描かれているだけ、というものも多い。
そこに妙に迫ってくる人物が表現されているので、何だかとてもバランスがおかしく感じられ居心地が悪い。
その不可思議な印象がシュールなイメージを更に強めている気がする。


東京都庭園美術館 キスリング展


2019年4月20日~7月7日 開催

2019.5.9拝観

本来肖像画はさほど好きでは無い。

しかし、何故かキスリングの肖像画にはいつも妙に惹かれてしまう。
数ある作家たちの中でも、一番好きな部類の一人、と言って良いであろう。
自分でも何故なのかは全く判ってはいなかった。
しかし、今回初めてこれだけの作品をまとめて拝見する機会に恵まれ、その理由が僅かながら掴めたようにも思う。

キスリングの個展は10年ぶりらしいのだけれど、前回の時期は丁度福岡に転勤中。
今回ようやく巡り逢えた、ということになる。

展示はほとんどがキスリング本人の作品、しかも油彩作品、いわゆる「本画」ばかり。 まだ他にも傑作はありそうだし欲を言えばきりが無いだろうけれど、キスリング三昧を堪能させてもらえたことは確か。

今回多数の肖像画と、おそらく初めて観る風景画などを通じて、とにかく赤が印象的に使われている。そして次いでその補色である緑も。
赤の中でも特に色の濃い深紅と言える色味が目立ち、その背景を中心に赤同様かなり濃く深い緑が、時にグラデーションをつけて使われている。
さらにそれに加えて、青と黄の対比を楽しめる作品も多い。
いずれにおいても、その色彩は濁ることが無く、濃淡は変われどとても澄んでいてピュア。
とにかく実に美しい。
何より、色遣い一つ取っても大好きなことが判った。
これまでは一点ずつの出会いだったのでそこまで意識することが出来なかったのだ。

常に本来よりも大きく印象的に描かれている眼は、ほとんどこちらを向くこと無く、
斜めを指している。
しかもこれまた大きめに描かれた黒目はぼんやりとしていて、どこにも焦点が合っていないように見受けられる。
それが見るものをどことなく不安にさせるし、一方で緊張を解かれたようなのんびりした気分にも感じさせてくれる。

ここは建物も近年重要文化財に指定されており、見物。
まとめて5棟指定されたのだけれど、本館以外は全く注目していなかったのでそれまで気にしたことが無かった。
なので前回訪問時に撮影しながら拝観したものの、その内の茶室は丁度修復中で観ることが出来ないでいた。
今回キスリング展の前にそちらに立ち寄ってじっくりと見学するのも楽しみの一つであった。
修復され新築のように綺麗になった茶室は、近代のものらしく、東屋というよりも住宅のような佇まい。
茶室にしては珍しく屋内も座敷に上がることは出来ないながら、土間から観ることが出来る。
明るく広く、直線的なしつらえですっきりとしている。皇室に相応しい清々しさの感じられる空間であった。