ツマグロヒョウモン 生物の環境適応


もう大分前、秋に入った頃合いに、家から店までの通勤途上(徒歩十分余り)で蝶々を見かけた。

 

オレンジのような茶色のような柿色とでも言うべき色合いでわりと大きい。

これはヒョウモンチョウだ。

とは言え、キタテハなどのタテハチョウならともかく、本来高原にいる筈のヒョウモンチョウが街中にいるだろうか。でもタテハチョウにしては大き過ぎるし、などと瞬時に思い悩んでいると、向こうが地面近くに止まってくれた。

柄も姿も紛れもなくヒョウモンチョウだ。しかも羽の上端が黒い。これはきっとツマグロヒョウモンに違いない。

高原にいる蝶がこんなところまで出てくるとは。

でもハクセキレイのように、渓流の鳥だと思っていたものが都会で雀と同じような暮らしをするようになっているケースもあり、生物の適応力には驚かされる。

勿論絶滅が危惧されているものの保護などはしっかり行なっていって欲しいとは思う。過去の絶滅生物の物語を読むどうにか残すことは出来なかったのかと胸が痛む。

しかし、こちらのそんな思いなど関係なく、生物というのはこちらが思っているよりも遙かにしたたかなのかもしれない。

そんなことを思いつつ店に着いた。

 

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で、ネット検索をすると確かに「ツマグロヒョウモン」に間違いはなかった。

だが、事情は全く異なっていた。

こいつらは高原の蝶、などでは全く無く、むしろ真逆、南方の生きものだったのである。

元々は沖縄辺りに棲息していたのが徐々に北へ、東へと勢力を絶賛拡大中、という種だったらしい。

地球温暖化、という奴には疑問しか感じていないのでそれに組することはしないとしても、比較的穏やかなことが多い最近の冬期の気候とおそらくは彼ら自身の耐性強化によって棲めるところを増やしつつあるようなのだ。

九州から中国・四国地方を経ていつの間にか関西へ、そしてとうとう最近関東まで行き着いてきたということだ。

 

様相は異なるとは言え、生物の適応力の凄さを知ることが出来た、という意味では変わりがない。

しかし、何故彼らだけがこのように勢力を拡げられたのか疑問は残る。

 

実は、東京近辺は生物にとって一つの分布境界に当たるところらしく、西日本では当たり前のものが東京もしくは神奈川以東では全く見られない、というケースが幾つもある。勿論その逆も。

昆虫しか事例を知らないのでそれで言えば、九州などでは蝉と言えばまずクマゼミ、と思いつく程やたらにいる蝉だけれど、あれは東京にはいない。

子供の頃熱海で初めてその「シネシネ」という声とグロテスクと言ってもよいごつい体に驚愕した記憶がある。だから、ずっと以前からごく近くまでは棲息しているのに、そこから東へ来る気配がない。

また、モンキアゲハという蝶も神奈川県の津久井町で発見したことはあるものの、東京の公園などで見かけたことは一度もない。これも子供時代から変化はない感じだ。

逆のケースとして、オナガという鳥は東京では珍しくもなく雀並みによく見かける。店の窓外でもよくぎゃーぎゃー鳴き叫んでいる。

しかし、彼らは東京近郊以外では見かけない種類らしい。

 

津軽海峡のような物理的障壁は誰にでも理解しやすく、これがブラキストン線と呼ばれる境界線であることはよく判る。

一方で東京・神奈川近辺は特に気候も環境も違うところなど無く、生物にとっての障碍など何も無いように見える。

でも、彼らが勢力を拡大できない、というのは何らかの合理的な理由があるとしか思えない。

生物にとってその棲息範囲を少しでも拡げること、それが至上命題であって、そのためにさまざまな繁殖手段を生み出してきているのだから。

実のところ今は違うよ、という事実などもあったりするかもしれないものの、少なくともしばらくの期間、そこらが境界になっていたことは間違いが無い。それは当時図鑑などでも確認済だ。

 

今のところその解答については糸口すら何の持ち合わせも無いけれど、ずっと気になりつづけていることでもある。

だから、ツマグロヒョウモンがその壁を易々と乗り越えてしまったことは、余計不思議に思えてならないのだ。

 

実は今回見かけた羽の端が黒いという個体はメスだったらしい。

得てしてオスが求愛のために特徴的なカラーリングや姿、行動などを見せる中で、なぜこいつはメスの方が目立ってしまうのか。

こうした疑問もふつふつと湧いては来たのだけれど、もうかなり長くなってしまった上こちらの落としどころもまるで見当もついていないので、それはまた別のお話、ということで。

 


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